イルカのジャンプで水を浴び、江ノ島の海で水をかけあい、ぼくたちはびしょ濡れだった。
思いきり戯れて遊んだ後、砂浜に腰かけた。
「びしょびしょだよ」
ぼくはポケットからハンカチを取り出してはまっちの頭にかぶせた。
「ありがとう」
「何だかカッパみたいだな」
「ひどい…それにここは海よ」
はまっちもポーチからハンドタオルを取り出してぼくの頭にのせた。
「お返し、これであなたもカッパよ」
あなたなんて呼ばれたことがないのでうろたえたが、ぼくも続けて言った。
「ぼくたち、揃いも揃って海のカッパかな」
「川から出て海に流れ着いたカッパね」
何だか、二人で顔を合わせてにやにやした。
「ここに来てよかったな」
「でしょ?」
はまっちは胸を張って自慢そうに言った。ぼくはその姿が何だかまぶしくてちょっと目をそらした。
「だね」
知らない間に時間が過ぎていたのか、あたりは茜色に染まり始めた。
「ほら、夕陽が…」
はまっちの長い指の指す方向を見ると、太陽が右手にある江ノ島の展望台のあたりに沈んでいく。
はまっちは急に両手を合わせた。唇がかすかに動いて何かをつぶやいているようだった。
「うえっちも」
「夕陽にお祈りするんて変わってない?」
「いいでしょ、かえってわたしたちにふさわしいでしょ?」
ぼくも結局、両手を合わせてお祈りした。『この幸福な時が終わらないで、はまっちとずっとずっと一緒にいられますように』。
「はまっちは何をお願いしたの?」
はまっちは答えなかった。代わりに、茶色の大きな袋を引き寄せて中身を取り出した。
「じゃーん、陽が落ちたらお決まりの楽しみよ」
「花火⁉︎」
ぼくたちは暗くなると、花火をしてバカみたいにはしゃいだ。はまっちは花火を手に持ってぐるぐる回した。打ち上げ花火にビビったぼくの代わりに点火して、「たまや」と叫んでいた。ネズミ花火には踊るように飛び跳ねた。
浜辺にはぼくたち以外にはいなかった。
最後の線香花火に来ると、ぼくたちは何だかしんみりした。
花火セットには、線香花火が五本ずつ十本入っていた。
風が強くなってきて、なかなかマッチで火をつけることができなかった。風に吹き消されてマッチが積み重なった。
それでも何とか火をつけることができて、線香花火が五本、四本、三本、二本とオレンジの火を散らして行った。そのたびごとにぼくたちはだんだん無口になっていった。
最後の一本の大きなオレンジの火の玉が落ちるまさにその時、はまっちは口を開いた。
「『これから始まるひとりひとりの旅の目的地でまた会えますように』って祈ったのよ』
真っ暗になった、空に輝く星の光以外には。
そして、ぼくたちの後ろから声がした。
「君たち、ここで何をしているんだね?」