それから、週2回の家庭部の部活、あとは怜と放課後帰ったりして、わたしは何だか居場所を見つけたような気がしていた。
あのことの後は一回もうえっちに連絡を取らなかったし、うえっちからも連絡も来なかった。
月日の砂時計はいつの間にか、どんどんとこぼれ落ちていった。
そうして、うえっちのことを思い出す回数もだんだんと減っていった。
ただ、左足にはしっかりと青色のミサンガが結えられていて、ミサンガを見るたびに、うえっちとの約束を思い出さざるを得なかった。
家では、父と母の間はいよいよ険悪になってきて、もう一緒にやっていくことはできないらしい。
そのことについて、怜に話したことがある。
「幸子、あなたのせいではないわ」
怜はきっぱりと言った。
「でも、わたしが生まれなかったら、パパとママは今も仲良くやっていたのよ」
「そんなことわからないわ。もしかしたら、お父様とお母様は、ふたりの関係がうまくいかないことをあなたが生まれてきたことに押し付けている可能性だってあるわ」
「そうなの⁉︎ そんなことは考えたこともないわ」
わたしは何だかかなり動揺してしまった。
「いずれにしても、ふたりの関係はふたりの問題であなたには関係はないわ、たとえ、幸子が彼らの子供であっても」
「子供のわたしはパパとママのことには関係ないの?」
わたしは念を押した。
「そうよ、関係ないわ、いっさい」
わたしは黙った、とても信じられそうなことではないけれども、心の奥ではその通りだと誰かが言っているような気がした。
それにしても、怜は何でわたしと同じ中1でこんなことが言えるのだろうか?
…
そんな会話を思い出して、わたしは『自分には関係ない、関係ない』と繰り返し、思ってみた。そうすると、不思議に心が落ち着いてくるのだった。
毎晩、キッチンでパパとママのいがみ合う声が聞こえた。時折、ふたりの会話に、「幸子が…」という言葉が混じって聞こえてくる。
そのたびに、わたしはまた、怜との会話を思い出し、『自分には関係ない、関係ない』と心の中で繰り返した。繰り返しているうちに、眠りに落ちた。
ある日、学校から帰ってくると、いつもは床に臥しているママが、ちゃんと着替えてお化粧もしてテーブルのイスに座っていた。
「どうしたの、ママ?寝ていなくて大丈夫?」
「さっちゃん、パパとは別れることにしたから」
わたしは驚かなかった。遅かれ早かれ、こんな日が来ることはわかっていた。
「今日、家を一緒に出るわ」
その晩はクリスマスイブだった。
わたしとママは家を出た。街にはイルミネーションが飾られていて、カップルも歩いていた。わたしは何だかうえっちのことを思い出していた。
『うえっちはまだ、あの約束を覚えているのかな?ミサンガはまだつけていてくれるのかな?』
わたしたちは、とりあえず、ひとつ離れた秋津駅の近くの古いアパートに住むことになった。
もう、あの家にはわたしはいない。
『うえっちから連絡が来たら、どうしよう?』
そのことだけが気がかりでならなかった。