ますます、神楽坂さんと帰ることが多くなった。休日さえ、時には神楽坂さんと会って、議論をした。不思議なことに、議論すればするほど、心は落ち着いて深海の中にいるようだった。そうして、いよいよ、クラスの男子と遊ぶことは少なくなっていった。彼らが何だか幼稚に思えて仕方なかった。以前は、表面上は、「うん、うん」と彼らの話、ゲームや漫画や下ネタに合わせていたが、もう合わせることもなくなっていた。ぼくは教室にいる時も、休み時間は本を読むことがほとんどになった。
そのうち、ぼくについての噂が流れ始めた。何でも、ぼくが神楽坂さんとただならぬ関係だということだ。
まあ、神楽坂さんは美人で目立つ人だったので、それも不思議なことではない。彼女と歩いていると、嫉妬と羨望の目で見られているのを時折、感じていたから。
それでも、中1の時は、表立って、ぼくのことを悪く言うものはいなかった。担任の大橋先生の睨みが効いていたのか、それとも、疎遠になったとは言え、クラスの男子と今まで仲良かったからかもしれない。
神楽坂さんは、卒業して、明治学院東村山高校という地元の共学のミッションスクールに入学した。
ぼくは、さすがに、高校に入学したら、神楽坂さんと会うこともなくなると思っていたが、そんなこともなかった。時折、平日も自転車通学の神楽坂さんと待ち合わせをして公園で話し、休日もハンバーがショップでお茶を飲みながら話をした。
白いシャツに、緑のリボン、紺のブレザー、緑のチェック柄のスカートを身にまとった神楽坂さんはいよいよ大人に見えた。長い髪が艶やかだった。
騒がしい話し声の中、神楽坂さんとぼくのいる場所だけがやたら静かに思えた。
「上地君、この制服はどうかな?」
「ええ、似合っています」
「惚れ直してしまったかな?」
「冗談はやめてくださいよ」
ぼくは顔を真っ赤にしてしまった。
「すまん、すまん。君には理想の君がいるんだったな」
ぼくははまっちのことが心に急に溢れてきて、胸がずきんと痛んだ。
「でも、もう1年近く会っていません」
「そうか、いけないことを言ってしまったかな」
「いえ、そんなことはありませんけど」
「まあ、ふたりの間に絆があれば、絆がふたりをまた出会わせてくれるものさ」
絆?、あれは幻だったのだろうか、それとも…
ぼくは話題を変えたくなって、不意に口に思ったことを出してしまった。
「部長は、何でぼくとこうして会っているんですか?」
もちろん、恋愛感情ではないことはわかっていた。けれど、髪からいい匂いがしてくる。
「そう、君と話すことが何より面白くてね」
「面白い?」
「女性となかなかこんな話はできないし、かと言っても男性とするのもめんどくさい」
「ぼくだとお手頃?」
「お手頃?そうじゃないんだ、前にも言ったように、男女を超えて話ができる人はなかなかいないということだよ、君は私にとって、そういう意味で貴重で大切な存在ということだよ」
『貴重で大切な存在』、その言葉はぼくの心の中心部まで深く深く届いたような気がした。
神楽坂さんが高1になったのだから、当然、ぼくも中2になり、クラス替えもあった。
最初は、中1の時のクラスと何ら変わることはなかった。けれども…