『これで最後のデートかあ』
わたしは鏡を見ながら、髪をブラッシングしている。
付き合ってからデートとらしいものはしていない。だから、これはうえっちと再会して付き合ってから最初で最後のデートになる。
わたしはちょっと落ち込みそうになる。
『自分で決めたんだから』
わたしは頬を両手で軽く叩いて気合を入れてみた。
鏡の中のわたしもしゃんとして見えた。
秋津駅に行って改札口でうえっちを待つ。
しばらくして、うえっちが現れた。黒のスリムジーンズに、薄青のオックスフォードシャツ。中学生にしては、大人びた服装だ。
手をあげると、うえっちも手をあげてくる。
そのまま、わたしが改札を通る。わたしはうえっちの温もりを覚えていたくて、手を差し出すとうえっちは優しく手を握ってくれた。
日曜日だからか、構内に人の数は少ない。若い母親と男の子と若い父親が、3人で手を繋ぎながら、わたしたちの前を歩いていく。
「サンダーバードの歌、歌って」
男の子が言う。
サンダーバード聞いたことはないが、何かの番組だろうか?
若い父親がハミングだけで歌を奏でる。
何だか、マーチのような歌である。
男の子は喜んでいるのか、声を出して笑う。
「よかったね、良樹」
若いお母さんが子どもを見ながら、さも愛しくてたまらないように言う。
ごくごく普通の家族、わたしもこんな普通の家族を持つ日が来るのだろうか…もしかしたら、うえっちと。
手を繋いで隣を歩いているうえっちの顔を見つめてみる。
「なに?」
うえっちはわたしの視線に気がついたのか、言葉を投げかけてくる。
「ううん、何でもない」
気がつくと、前を歩いていた若い家族連れはどこかに行ってしまった。わたしたちはわたしたちのペースで歩いていくだけだ。
秋の日差しが穏やかに差していて、空気も澄んでいるようだ。
電車で向かう途中、わたしはセブンティーンで読んだ心理テストをうえっちにしてみる。
うえっちには言っていないが、ふたりの恋愛相性度を調べるテストだ。
『これから別れるのに、わたしったら、何をしているのかしら?』
でも、それはそれ、これはこれだ。
相性度が90%以上と出たので、思わずニヤニヤしている自分に気づく。
うえっちにむっつりスケベと言ったけれど、これじゃ、むっつりなのは自分のことかもしれない。
これから行くディズニーランド、そこに行くのがうれしいような悲しいような。
永遠に着かなければいいのに、そんなことも思ってしまう。
けれど、そんな無限のループを繰り返すというアニメみたいなことが起こるわけもなく、わたしたちは目的地の駅に着いた。