無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 186 何気ない会話

何で冬なのにアイスティーを飲んでいるんだろうかと思いながら、心と体の火照りからするとちょうどいいのかもしれない。

はまっちがストローでアイスティーをかき混ぜると、氷が触れ合う音がかすかに響き合う。

「催眠ってどんなことをやってるの?」

僕はもう少し突っ込んで聞いてみた。

「今は、スクリプトを出す練習かな」

「それって、僕と同じじゃん」

はまっちは声を出して笑った。

「うえっちが『じゃん』なんて言葉使うの初めて聞いた。それって横浜弁って知ってる?」

「えっ、そうなんだ。はまっちは神奈川出身だから詳しいんだね」

「そうそう」

そう言いながら、まだ笑ってる。どうやっても、心がはまっちの片えくぼに吸い寄せられてしまう。

「さっきから、私の口元ばかり見てない?」

「うん、まあ、はまっちの片えくぼ見るの、久しぶりだから」

「笑うと出るのよね」

「知ってる、昔から」

「ところで、催眠の話ね。今度、催眠お互いにしてみない?」

「いいけど、ふたりで?」

「そうね、怜ちゃんと3人で」

「そりゃ、そうか」

「そりゃ、そうよ。私たち、もう高2だもの」

「いつ?」

「冬休みの最初の日がクリスマスイブでしょ。その日はどう?」

「クリスマスに催眠か、不思議な組み合わせだね」

「まあ、いいんじゃない」

「どこでやるの?」

「怜ちゃんの家で」

「わかった」

「ところで、受験大学はもう決めたの?」

「そうだね、A大学の哲学科にしようと思ってる」

「哲学科かあ、なんかうえっちにぴったりな気がする」

「はまっちは?」

「B大学の心理学科」

「あれっ、シェフになるんじゃないの?」

「もちろん、なるかもしれないわ。でも心理学を心得ているシェフなんて素敵でしょ?」

「そうかもね。僕は、合格したらひとり暮らしするつもり」

「私もね、ひとり暮らしするかもしれない。お母さんが再婚する予定だから」

「そうなんだ」

僕はなんと言っていいかわからなかった。

「何、微妙な顔しているのよ。おめでたいことよ。私は、お母さんが自分の幸せを見つけようとしていることを、うれしく思っているのよ」

「すごいね、はまっち。大人だね」

「そうよ、いつまでも小5のままじゃないわ。うえっちもそうでしょ?」

「そうだね、でも僕は変わっているのかな」

はまっちはしげしげと僕を眺める。

「なんか、すごく変わっていると思うわ。身長は伸びているし、声は低くなっているし、顎に髭の剃り残しはあるし」

「えっ、本当?」

僕は急いで顎の辺りを手で触った。特に何もないようだ。

「何、触っているのよ。冗談よ、冗談。じゃなくて、外面だけじゃなくて内面が変わっているように見えるわ」

「昔から知っているはまっちにそう言われるとうれしいな」

「何だか、心も体も男性らしくなったように思えるわ」

「そうかな、最近も、男性を感じないと人に言われたんだけど」

「私には男性らしく見えるわ。うえっちに興味がない人から見たらそう見えるんじゃない、ただそれだけのことじゃない?」

「ということは…。やめておこう。はまっちも落ち着いたというか、女性らしくなったというか…」

「ありがとう、うえっちにそう見えるなら、うれしいわ」

僕は、24日、午前9時40分に、あのバス停の前で待ち合わせることにしてファミレスを出た。

空に、変わらず、2つの羊雲がぽっかり浮かんで、夕陽に照らされて茜色に染まっていた。