無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 5

『秘密基地に行こうなんて、どうして言っちゃったんだろう』

 

秘密基地は、小学校から10分ぐらい歩いたバス通りに面した大きな国立病院の中にあった。

この病院は、広大な敷地が森で囲まれており、ぼくたちは朝、自転車でよく虫を取りに行った。一面に生えているクヌギの木から蜜が滴り落ちていて、蜜にカブトムシやクワガタが集っている、ごそっと捕まえて、みんなで分けあったものだった。一度、捕まえたカブトムシやクワガタに糸をつけて飛ばして遊んだが、糸が絡んで無惨な姿になったのを、その時は何とも思わなかったが、今、思い出すと心が痛む。

さらに、時々、大きな穴が掘られて、病院で出た使用済みの包帯やらガーゼやら綿やらゴミが燃やされていた。高村君とぼくたちは、5メートルはあろうかという燃え盛る穴に木の板を渡して、自転車で駆け抜ける遊びをしたりしていた。

「次はうえっち」

穴からは火が勢いよく燃えていて、渡した板の焦げるにおいがする。そこに落っこちたらと一瞬、頭を掠めたが、臆病者と思われたくない気持ちが優った。

腰をあげて、ペダルをびゅんと力強く漕いで、ごつんと板の上に乗る振動を感じた後は、ただ前を見て、一気に板を駆け抜けた。

駆け抜けると、ほっとため息が出たが、何だか、自分がヒーローにでもなったかのようで気持ちがよかった。

「すごいぞ、うえっち」

気持ちを裏書きするように、高村君が手をあげる。ぼくも、答えてハイタッチする。

秘密基地とは、そんな病院の森の奥深くにあるオンボロの小屋のことだった。

青いトタン屋根の木造の小屋、小屋に至る道と言えば、大きめの石が土の中に埋め込まれているだけだから、気をつけていないと小屋がどこにあるかもわからなくなってしまう。

もちろん、鍵がかかっていたが、古いせいか、右斜めに引っ張ると外れてしまう。

中は、棚が敷き詰められていて、ラベルの字が掠れて読めなくなった薬品の瓶や金属の容器に入った注射器、ドイツ語で書かれたカルテがまとめられたファイルなどが乱雑に収められている。そして、部屋の真ん中には、会議室にあるような大きな折りたたみのテーブルと長椅子がある。

誰が言い出したかわからないが、この小屋は解剖部屋だったという噂もあった。

でも、ぼくたちはおかまいなしにいろいろなものを持ち込んでいた。

と言っても、たいていのものは、大通りにあるゴミ捨て場から持ち込んだものだった。ただ、穴の開いたモスグリーンのソファは、ぼくたち数人の小学生でも大変だった。

最初、秘密基地と呼んで、ぼくたちはそこで作戦会議をしたり、お菓子を食べたり、ゲームをしたりしたが、そのどれも家でできることに気づき、また秘密基地という言葉の響きに慣れてしまうと、秘密基地に行くことは滅多になくなった。

 

ぼくはその秘密基地に、はまっちを誘おうというのだ。