目が覚めた。ぼくの左側には綺麗すぎないはまっちがテーブルに伏せっていた。
そして、おそらくぼくもカッコよすぎないぼくなのだろう。
『今のは何だったんだろう。夢なんだろうけど…』
そう思っているうちに、はまっちも目を覚まして起き上がった。顔左半分を押さえていたハンカチがはらりと落ちた。
「あっ」
そこにあっただろう腫れはなくなっていた。
「何もないよ」
「どういう意味?」
はまっちは右手で顔の左半分を撫でた。
「あれっ、おかしいな」
「綺麗すぎないいつものはまっちだよ」
「えっ」
ぼくは赤面した。
「なんか、おかしなこと言った?」
「そうじゃなくて、今言った言葉と逆のこと…」
ぼくもハッとして、
「『はまっちにしては綺麗すぎる』ということ?」
「うん」
「もしかして、同じ夢を見てたということ?」
お互いに夢見てた内容を言ってみると、本当に同じ夢だった。しかも、はまっちの顔の腫れがひいているのはどうしてなんだろう。
この小屋に何か特別な力でもあるのだろうか。
ぼくたちはちょっと怖くなった。
けれど、ぼくたちはずっと怖がっているには幼すぎた。
はまっちは、急に真剣な顔つきになって、ぼくの目をまっすぐ見つめて言う。
「お腹空かない?」
気がつけば、もう給食の時間だった。学校にいれば、美味しい給食が食べられたのにとちょっと思ってしまった。
「でも、お金ないよ」
はまっちは、左側にかがんで紺色のボストンバッグから何か取り出した。
「じゃん!」
あろうことか、豚の貯金箱だった。
「ダセェ貯金箱だなあ」
はまっちは頬をプーと膨らました。表情が何とも可愛らしい。
「じゃあ、飢え死にしなさいね」
はまっちは貯金箱を引っ込めるふりをした。
「ウソウソ、お願い、はまっち樣」
ぼくは大袈裟に手を合わせてはまっちにお願いした。はまっちは演技の膨れ顔をほどいて、愉快そうに笑った。
「でも、準備いいね」
はまっちは視線を下に下ろして、
「ダセェ上履きで外を出歩いている人とは違うからね」
ぼくもその言葉がどストライクでツボに入ってしまったのか、笑いが噴き出して止まらなくなった。
何だか感じたことのないほど、幸せだった。