無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 11

はまっちは全部言わないでも、全部わかってくれてる気がした。そんなことはあり得ないのだが、後から考えれば錯覚だったかもしれないのだが、ぼくはそこにすがってしまった。

でも、そうしてすがりついたはまっちが自分と同じく傷ついた人間であることに、なんとも言えない気持ちを覚えた、自分がずるいような感じがした。

 

「ここに来たことも秘密、そうしてわたしたちが他の誰にも言えない秘密を教えあったのも秘密…」

はまっちはまた唇に右の人差し指をあてた。目がとても澄んでいたが、なんとも言えない神秘的な光をたたえていた。

「ぼくたち、秘密だらけだね」

「そうね…だから、契約しましょう」

座っていた彼女は立ち上がって、戸近くのテーブルの右側に移動した。ぼくもつられるように、それに合わせて移動した。ぼくたちは、60、70センチ離れて互いに向かい合った。

「さあ、右手をあげて」

「うん」

ぼくは顔に血がのぼるのを感じずにいられなかった。

「わたしの言葉のあとについて言ってくれる?」

舌が上顎にくっついてしまったようで、うなずくのが精一杯だった。

「わたしたちは、お互いの秘密を守ります…」

ぼくは、急いで唾を飲み込んで、振り絞るように声を出した。

「わたしたちは、お互いの秘密を守ります」

それから、はまっちは急にぼくをまっすぐ見つめて言った、

「死が二人を分つまで」

聞いた途端、心臓は最大トルクにまで達した、ぼくは一瞬、言葉を言うかどうかためらった。

けれど…

「死が二人を分つまで」

言ってしまったら、何だか、もう後には引き返せない人生の重大な選択をしてしまった気がした。小5でこんな選択をしてしまう男の子がこの世界に何人いるだろうかなどとぼんやり考えた。

「誓いの〇〇はなしね、今はね」

はまっちはふだんの悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「どういう意味?」

「うえっちが思っているとおりの意味よ、アハハ」

はまっちは愉快そうに笑った。

 

その後はぼくたちは帰るまで、何を話したのか、何をしたのか、もう思い出せない。すべてが夢のような気がする、ただ、背中をさすってくれた温かい手、「死が二人を分つまで」と言ったまっすぐなまなざし、愉快そうな笑い声が永遠の現在であるかのように、ぼくの魂のなかに響いている。

 

ぼくたちは、普通の家庭なら夕食の団欒を囲む頃、小屋を後にした。

はまっちは何もしゃべらなかった。ぼくも何もしゃべらなかった。空にかかる月には雲がかかっていたが、それでも雲を通って光が見える気がした。

 

「ただいま」、家に帰るといつもどおり、真っ暗で何の返事もなかった。おそらく、お母さんは部屋で寝ているのだろう。もちろん、ダイニングルームの食卓にも食事はあるわけもなかった。

こういうことを何度も繰り返すたびに、ぼくは自分がマッチ売りの少女のような気がして凍える思いがした。

でも、今は、ほんのちょっとだけ違っていた。

マッチ売りの少女が二人なら、いやマッチ売りの少年と少女なら、たとえそこが地獄でも、二人でいれば温かいのかもしれない、たとえ、そこが天国になることはないにしても。