ぼくたちはしばらくただ黙っていた。
それから、ぼくはバッグから赤い小さな箱を取り出してテーブルの上に置いた。
「ウノ!」
「うん、やる?」
「やるよ」
…
ぼくはぎこちない手つきでカードを混ぜた。高村君みたいにかっこよくカードをシャッフルできたら、練習しておけばよかったと思ったが、後の祭りだった。カードを配り終えて、始めると、そこにはいつものはまっちがいた。
「ドローフォー」
「ちょっと、待って。先から続けざまにドローフォー出してるんだけど」
「いいじゃない、そういうゲームなんだから」
「まあ、そりゃそうだけど、手加減というものを知らないの?」
「手加減したら、うえっちに失礼でしょ」
5回勝負で、結局、3勝2敗でぼくが負けた。
「負けた方が罰ゲームね」
「罰ゲームなんて聞いてないよ」
「罰ゲームがなかったらゲームなんてやるもんじゃないわ」
「そうなの?」
「そうよ。じゃあ、夏だし、うえっちが怖い話をしてよ、うーんと怖い話」
『怖い話、怖い話…なんかあったかなあ。そうだ』
「えーと、これは内緒なんだけど、高村君と家でいたずら電話をして遊んでいた時…」
「わっ、犯罪だあ」
はまっちはさも面白そうに顔を輝かせた。
「うーん、その時、適当な番号に電話をかけて、『今、何時?』っていたずらを最初してたんだけど、案外、まともに『今、何時何分よ、これからは117にかけなさい』なんて答えが返って来ちゃったからね…」
「それでどうしたの?」
「それでね、今度はやはり知らない家に電話して、『ここは地獄の一丁目だあ』とかできるだけ怖い声で相手を脅かして」
「超迷惑」
「話の腰を折るなよ。…そしたら、電話の向こう側にいる女の人が、泣きそうな掠れた声で、『さくら、さくらあ…』と歌い出したんだ。ぼくと高村君は、ゾッとして急いで電話を切ったんだ」
「何それ、全然怖くないわ」
…
「じゃあ、今度は、わたしの番。ほんとに怖い話よ」
顔つきが変わってまたあのはまっちになった。
「この話は、決して誰にも言わないで。言ったら呪われるから。秘密の中の秘密よ。約束してくれる?」
「うん」
それ以外の返事が何かあっただろうか。
「覚悟はいい?」
「…うん」