「ある時、あるところに、幸せなカップルがいたの。
男の人は、すごくイケメンで才能もあってお金をたくさん儲けていたわ。けれども、そんな外面とは違って、心の中はすごく寂しかった。
ところが、ある日、駅への道を急いでいる時に、女の人にぶつかってしまったの。女の人はアスファルトの道路に頭をぶつけて軽い怪我をした。
男の人はあきれるぐらいに謝って、『怪我の治療費を支払わせてくれ』と頼み込んだ。女の人は大したことないからと断ったけれども、ついには相手の熱意に押されて連絡先を教えた。」
「まるで、韓流ドラマみたいな展開だね」
「そうね。それで、お決まりのドラマみたいに2人は付き合うことになった。男の人は、女の人が特に目立つことのない、ごく普通の人であるところに魅力と安らぎを見出していた。2人は、これ以上ないぐらい幸せだった。」
はまっちはうっとりするように、目を輝かせながら語っていた。
「けれど、そうやって付き合っているうちに、女の人に赤ちゃんができたの」
はまっちは、急に顔を伏せた。ぼくは赤面した。
「男の人は、子供が好きではなかったし、女の人といつまでも2人きりで一緒にいたかった。それで、子供をおろすように言ったけれども、女の人は受け入れなかった」
「よくある話のようだけど、ひどいね」
「そうね。でも、最後には、男の人はどうしても女の人が必要だと考えて、子供を産むことに同意して、2人は結婚したわ」
「とりあえず、よかった」
「でも、それからが悲劇だった。男の人は、子供の世話をする女の人に、女の人を取られたような気がした。そして、自分がパパになった実感も持てなかった。それで、どんどん、不機嫌になって、心の中には自分の言うことを聞いてくれなかった女の人に対する恨みと、子供に対する憎しみが募っていった。ついには…」
はまっちは顔を上げたが、目にはとばりがかかっているようだった。
「ついには…?」
ぼくは息を飲み込んだ。
「ついには、女の人に暴力をふるうようになった。そうして一度、暴力をふるうようになると、もう止められなくなった。女の人は、子供にだけは暴力をふるわれないよう、必死になってかばった。そうして、心の病にかかって起きるのもやっとの状態になってしまった…」
心臓がつぶれるような思いがした。
「子供は、自分が望まれない子であること、自分が生まれなければ、パパもママも幸せに暮らしていたことを思って、自分の存在を呪わない日はないの」
…
「うえっち、怖い話でしょ?」
ぼくは何も答えなかった、いや答えられなかった。
ふと、窓を見ると夜になっていた。ぼくたちの心も夜になっている気がしていた。