ぼくたちは買い物に行って、食べ物を仕入れる必要があった。
秋津駅の方向には小学校があるので誰かに出会う確率が高い、みんながぼくたちを探しているだろうし。
清瀬駅までバスで行こうかとも考えたが、やはりバスのなかで誰かに会う可能性がある。
結局、メインのバス通りではなく、人気のない裏通りを歩いて混雑している駅前のスーパーまで行くことにした。
「はまっちも行く?」
「当然、ひとりで置いてかれても困るよ」
「そうだね」
「ところで、そのダセェ上履きで行くの?」
「そう…だね」
もしかしたら、上履きで外を歩くと目立つんじゃないかと思ったけど、他に選択肢がなかった。けれど、はまっちの黄色いワンピも同じぐらい目立つんじゃないか。
ぼくたちは、小屋に赤錆が出ている南京錠をかけて出かけた。
まず、第一関門は病院、病院の人に見つからないことだ。夕方の日差しで病院の白い建物も何だかバラ色に染まっている、その脇を音を立てないように忍び足で通り過ぎる。レースのカーテンをひいた窓からは、看護師たちがきびきびと忙しそうに廊下を行ったり来たりする姿が見えた。窓の外の僕たちに注意を払う人はいなさそうだ。それでもぼくたちは頭を低くして、足早に通り過ぎ、正門に誰かいないかを確認してダッシュでメイン通りに出て、すかさず右に曲がり、また高校の脇道を右に曲がる。
高校のグラウンドでは高校生が野球の練習をしていた。時折、カーンと打たれたボールがそれて歩いているぼくたちの方向に来て、男子高校生がぼくたちの方を見た。
特にぼくたちに注目している様子はない。
ぼくとぼくの右に歩いているはまっちは、言葉少なにズンズンと歩いて行った。
高校を通り過ぎると、車の通りも少ない、木に覆われた道が続く。ぼくはちょっとホッとした。はまっちも同じ気持ちなのかもしれない。
「ドキドキするね」
「これって逃避行?」
はまっちは悪戯っぽい笑みを浮かべた、右に片えくぼが現れた。
ぼくは直接答えない。
「スーパーで何を買おうか?」
「サンドウィッチ。うえっちは?」
「ボリュームのあるお弁当がいいな」
「わたしのお金ということを忘れないでよね」
「だから、言っているんだけど」
はまっちは笑いながら、ゲンコツをつくってぼくの頭をこづいた。
ぼくは何だかとても愉快な気分になった。はまっちと冒険しているような。
そうやって何気ない話をしていたから、前からどこかのおばさんが来ているのに気がつかなかった。それで、思わずぶつかりそうになった。
「危ない!」
左通行をしてきたおばさんは立ち止まって、ぼくたちを上から下までじろじろと見た。
一瞬、心臓にぎくっと痛みが走ったが、知らないおばさんだった。はまっちはどうなんだろう。
「気をつけなさいよね」
「わかりました」
それから、ぼくたちはまた、なだらかな下り道を歩いて行った。
急に、はまっちがぼくの右手を握ってきた。
「あのおばさん、知っていた?」
「ううん、そういうことじゃないけど」