はまっちはガラガラと引き戸を開けて、自分の家のように入っていく。いや、自分の家よりも自分の家みたいだ。
「おばあちゃん、いる?」
「はあい」
奥から声がする。
ちょっと足を引き摺りながら、80歳ぐらいだろうか、おばあさんが出てくる。にこやかな、ほっとさせるような雰囲気の人だ。
「さっちゃん、よく来たね」
「うん」
「あら、まあ、こちらはボーイフレンド?」
「そう、うえっち」
はまっちが何のためらいもなく、そう呼ぶのが恥ずかしかった。そして、何よりさっちゃんという言葉が新鮮だった。ぼくは学校の歌集に載っていた、あのさっちゃんの歌を思い浮かべた。もっとも、はまっちはちっちゃくもなければ、バナナも2、3本は食べられそうだけれども。
「こんにちは、うえっちさん」
「お邪魔します」
靴を脱いで廊下を歩いていくと、消毒液の匂いがプンとした。
右側の畳敷の部屋に入ると、テレビがついていて、そしてコタツが置いてあり、テーブルの上にはみかんがカゴに盛られていた。そして、木の枠のガラス戸が開かれていて、日のあたる縁側があった。
はまっちは部屋に入ると、さっそく、こたつのところにするりと入って座布団の上に横になった。そんな秒速でくつろぐはまっちを見るのは初めてだった。
「ちょっと待っててね」
おばあさんは、何やら取りに行った。その間に、ぼくははまっちに話しかけた。
「前から知ってるの?」
「ううん、クリスマスイヴの日からかな」
あのことの後、ぼくたちは学校のゴミ捨て場で一度会ったきりで手紙をちょっとやりとりする以外は連絡もできなかったから、初めて聞く話だった。ぼくの知らないはまっちがまだたくさんあるんだ。
「親と喧嘩して、まあ、いつものことだけど、家を飛び出して、誰にも見られたくなくてここをさまよっていたら、玉美おばあちゃんと出会ったの」
その時、おばあちゃんは、お盆に山のようにお菓子を入れたもうひとつのカゴとオレンジジュースとコップを持って入ってきた。
「そうだったね」
おばあちゃんは、微笑みながら、お菓子のカゴやらジュースやらこたつの上に並べていく。
「どうぞ、食べてね」
「それから、ちょくちょくお邪魔してるわけ」
ぼくははまっちとおばあちゃんを交互に見た、血がつながっていないのだから似てなくて当然だだが、でも何だか似ているような気もする。
おばあちゃんもこたつに入る。特別なことは何もない、ただただゆるやかに時間が流れていく、ぼくもはまっちではないが、何だか力が抜けて横になってしまいたくなった。