おばあちゃんは特に何かを聞いてくるわけではない。ただそこにいてくれるだけ。それがたまらなく心地よかった。ふと見ると、はまっちはすーすー寝息を立てて眠っている。ぼくもますますまぶたが重くなって、うつらうつらした。
「うえっちさんも少し眠ったら」
「はい」
ぼくは何とか返事をした。そうして、座布団に横になった。あたりは静かで冬の陽射しが差し込んでいた、下半身がこたつの温かさにおおわれて、鼻にかかる吸う息吐く息に気持ちを向けていると、眠りの世界に落ちていった。
…
目が覚めると、ぼくはハンモックに揺られていた。隣にもハンモックがひとつ、ポニーテールの女の子が揺られている。
辺りは緑の鮮やかな木々が茂っていて、冬とは思われない。生まれたてのような青い空には、鳥の群れが飛びかう。
ハンモックは白いウッドデッキにかかっている。
ハンモックから降りて見ると、白樺でできたウッドハウスにしつらえたものらしい。
「はまっち、はまっち」
ぼくはちょっとだけためらいがちに、はまっちの肩のところを軽くつかんで揺らすと、目を擦りながら、起きた。
「なあに?」
「はまっち、ここはどこ?」
「いつもの小屋じゃない」
「小屋?」
ぼくはいぶかしげに答える。
はまっちは何も言わずに、厚みのある茶色の扉をさす。
近寄って見ると、扉に蝉の抜け殻がついている。
『してみると、ここもあの小屋なのかな』
ぼくはちょっと頭が混乱してくる。
戻ってみると、はまっちはまた眠りこけていた。ぼくはもうためらうことなく、力強く揺らした。
「はまっち、起きて起きて」
「なあに?」
「変だよ、ぼくたちはこんなところにいたっけ?」
「いたんじゃないの」
「一緒に来て、一緒にあの扉を開けて」
「しょうがないなあ」
はまっちはちょっと不機嫌に答えた。
それでも、ハンモックから降りると、まだよろよろしていたが、ぼくについてきた。二人で扉の前に来ると、気のせいか、中から消毒液の匂いがしてくるような気がした。
「ほら、確かにあの小屋でしょ」
はまっちは当然のように言う。
ぼくは初めにひとりで扉を開けようとしたが、扉はびくともしない。
「やっぱりひとりの力では開かないみたいだ」
「わかった、わたしも押すから」
いっせのせで、二人で力を合わせて、扉を押すと、ギーギーと木と木が擦り合わさるような音がして少しずつ動き、ついには開いた。
扉が開くと、中にはあの木製のテーブルとイス、周りには棚があり、ラベルの読めない薬品が並んでいる。
「やっぱり、あの小屋でしょ?」
「そうだけど…見て」
ぼくは指さした…