その後も、ぼくたちは玉美おばあちゃんの家に何回か行った。けれども、ぼくたちは夢を見て、ふたりの赤ちゃんに会うことはなかった。
それでも、ふたりの、ぼくとはまっちの左の足首にはミサンガがしっかりと結わえ付けられていた。
ぼくたちはおばあちゃんの家で話し合ったものだ。
「どういうことだろう?」
「あのミサンガのこと?」
「何で夢で赤ちゃんの足にミサンガをつけたのに、ぼくたちの足にミサンガがあるのか…」
「もしかして、ふたりの赤ちゃん、わたしたちの子どもとか?」
「よせやい」
ぼくは顔から火が出る思いで言った。
「言ってみただけ。それにしても、ふたりで同じ夢を見ていること自体がそもそも変なんだけどね」
「前にもあったから、もう当たり前のように思っていたけど…それもそうだね」
「なんか、熱心に話をしているね」
玉美おばあちゃんがぼくたちの話に入ってきた。
「おばあちゃんにも話聞かせてくれる?」
ぼくたちは一瞬、顔を見合わせたけれども、玉美おばあちゃんは信用できる大人だった。それで、夢のことは話したが、それでもあの小屋そのもののことは話さなかった。
おばあちゃんは、ぼくたちの話を何も言わずにじっと聞いていた。何だか、目に涙を滲ませているようだった。
「不思議なこともあるものだね。私も小さな時に同じような夢を見たことがあるよ」
「そうなの?」
「もっとも、私の夢では、赤ちゃんはひとりでゆりかごに揺られていて、赤ちゃんに渡したのは私が大事にしていた布製の人形だったんだけど」
「それからどうなったんですか?」
「夢から覚めて、ある時、写真のアルバムを見ると、赤ちゃんの頃の私が、私があげたあの人形を握りしめて写っていたんだよ、私の錯覚かもしれないけど」
「…」
ぼくたちは、家に帰って、アルバムを探した。そうして、赤ちゃんの頃の自分たちが写っている写真を、それぞれ、見つけた。
その次の日、ぼくたちは放課後、担当の先生がいない保健室でおちあった。
窓から風が吹き込んできていた。何となく、春の匂いがした。
ぼくとはまっちは、ベッドに並んで腰かけた。
そうして、お互いがアルバムから取ってきた写真見せ合った。すると、驚いたことに、赤ちゃんのはまっちの左足首には、青のミサンガが、ぼくの赤ちゃんの左足首には、虹色のミサンガがあった。
ぼくたちはしばらくの間、お互いを見つめあって何も言わなかった。校庭からはジャングルジムで遊ぶ低学年の子たちのはしゃぐ声が聞こえた。
「もしかして、あの夢の赤ちゃんって」
「過去のわたしたち?」
「…ぼくたちは、同じ夢の中で、過去の自分たちに、赤ちゃんの自分たちに会っていたということだよ」
「そんなことってあるの?」
「あるも何も、そうとしか考えられないよ」
ぼくは続けた。
「それだけじゃない、はまっち、以前、この写真見たことなかった?」
「うん、あったんだけど、ミサンガなんかしてなかったような」
「ぼくもそうだよ」
「すると、わたしたちの過去も変わっているということ」
「そういうことになるね」
心の奥の奥のまた奥から、
『「今」が変わるなら、「過去」も「未来」も変わり、また「過去」も「未来」も変わるなら「今」も変わっていく。変わらないものなど何ひとつない』
という声が聞こえるような気がしてならなかった。