無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 98〜U 21 神をめぐる対話⑴

テーブルを挟んで、神楽坂さんの向かいに、窓際にぼく、そして隣に佐伯さんと座った。レディファーストで、佐伯さんを座らせようとしたが、それとなく袖を引っ張って来て、いきなり神楽坂さんの正面に座るのは緊張するのだとわかった。

『佐伯さんでも緊張するんだな』

ぼくたちは、ドリンクバーを注文して、ドリンクコーナーに飲み物を取りに行った。ぼくは、ダージリンティーをミルクティーにして、佐伯さんはオレンジジュースを持ってきた。

神楽坂さんは、ぼくたちの持ってきた飲み物をちらっと見て、つぶやいた。

「なるほど、性格は選んだ飲み物でも表れるものだな」

どういうことなのかと聞こうと思ったが、何だか聞けなかった。

佐伯さんは、柄にもなく、モジモジしている。『これじゃ、ますます、まるで普通の女の子じゃないか』とぼくは思ってみたりした。

言うまでもなく、ごくごく普通の女の子なんだろう。ただ、多くの人は外面に欺かれて、内面が見えないだけなんだろう。

「ところで、君たちは、神がいると思うかね」

そんなことを考えているぼくにお構いなしに、神楽坂さんは道端に時折見かけるアメリカ人青年宣教師みたいなことを、いきなり、聞いてくる。

佐伯さんは、顔に大きなクェスチョンマークを浮かべて、ぼくの方を見てくる。

そんなに見つめても、神楽坂さんはこういう人なのだ。ぼくと神楽坂さんがスィートトークでもしているとでも思っていたのだろうか。

「いないと思います」

ぼくは答えた。

「佐伯さんはどう思う?」

佐伯さんは、どぎまぎしているのか、赤くなったり青くなったりしていた。それを、神楽坂さんは穏やかに見つめて、静かに待っている。その眼差しで落ち着いたのかどうか、やっとのことで言葉を出した。

「わたしは、どこにもいると思います、ほら、穀物の一粒一粒にも神が宿るっておばあちゃんによく聞いたから」

「なるほど、おもしろいね」

神楽坂さんは、佐伯さんに微笑む。

「私は、学校がミッション系なものだから、礼拝の時間や聖書の授業がある。それで、当たり前だが、神について考えることが多くなる」

佐伯さんは、神楽坂さんの制服を上から下まで見ている。

「けれど、もし神が本当にいるなら、神というものは人間が考えたり、想像できるものとは全く違っているんじゃないかと思っている」

「えっ、どういうことですか?」

そう言いながら、佐伯さんだけじゃなく、神楽坂さんも外見と内面にギャップがあるなと思ってしまっている。モデルのような見た目の人が、こんなことを考えているなんて、人間って面白い。

「そうだな、ありは人間のことを考えたり、想像できると思うかい?」

「無理だと思います」

佐伯さんがあまりに素直に答える。

「神もいるなら、人間を超えたものだ、その人間が考えたり、想像できたりするものが神のはずはないだろう」

ちょっと、頭が混乱した。

「そしてだ、聖書が学校で買わされて、ちょっとずつ読んでいるんだが、聖書の言っている神は、啓示だと言っているが、私が考えたり、想像できるものと同じかそれに近い」

「ということは、それは神そのものではないと、いうことになりますね」

ぼくは神楽坂さんの赤い縁のメガネを見ながら言った。

「そうだね、だから、そういう、人間がこれが神だと考えたり、想像しているものは、実際のところ、神ではない」

佐伯さんは、呆気にとられて、きょとんとしている。

「神という観念であって、神ではないということになりますね」

「そうそう、だから、そういう意味、つまり、そういう神という観念からすると、神はいないということになる、だから、上地君の言っていることも正解になる」

「なるほど」

ぼくもよくわかったわけではなかったが、とりあえず、うなずいた。