無意識さんとともに

https://stand.fm/channels/62a48c250984f586c2626e10

催眠!青春!オルタナティヴストーリー 123〜U34 心模様

はまっちと会う約束の日が明日だというのに、ぼくは佐伯さんのことばかり考えていた。

佐伯さんのことが好きかと聞かれれば、おそらくそうではないだろう。それでも、考えることがやめられない。

『優しさほど人を傷つけるものはない』、そう言われれば返す言葉はない。その通りだと、自分でも頭ではわかっていた。単なるお節介だと思う。それでも、やめられない。

どうしてだろう?ヒーローになりたいのだろうか?

それもないではない。小さな頃、ウルトラセブンに憧れていたから。今でも正義のヒーローに憧れていたから、その残り火が自分の胸の中でまだ燻っているのかもしれない。

けれども、これは正義の問題ではない。

佐伯さんの痛みがまるで自分の痛みのように感じる。

中1の時に、夏休みの宿題で読んだ『アンネの日記』を思い出した。ぼくは、ナチスに追われて隠れ家に住むアンネにあまりに感情移入して、思わず号泣してしまい、家族に知られないように、布団の中で嗚咽したことがあった。

もちろん、頭ではそんなことは何もならない、馬鹿馬鹿しいことだとわかっている。まして、佐伯さんはアンネでも何でもない。

そう思って自分を懸命に説得してみるのだが、それでも佐伯さんのことが頭の中にぐるぐる回り続ける。

ぼくは一晩中、眠れなかった。

寝不足の状態で学校に行った。休み時間に部室を覗いたが、佐伯さんの姿はなかった。

家に帰ってから、着替えて塾に向かった。その僅かな時間も佐伯さんのことを考えていた。そして、同時に、これからはまっちに会うのに、佐伯さんのことばかり考えている自分に罪意識を感じていた。剣山を胸に押し付けているような痛みがあった。

塾の前で待っていると、向こうから、麦わら帽子をかぶった白いワンピース姿の少女がやってきた。肌が小麦色に焼けて、南国少女のようだった。

初めは、それがはまっちだということがわからなかった。まるで、自分の白昼夢の中で、自分の理想の女の子の幻を見ているみたいだった。

でも、近づいてくると、はまっち以外の誰でもなかった。ぼくは右手をあげた。

今まで、佐伯さんのことを考えていたのに、その瞬間、ぼくの心はスイッチが切り替わるようにはまっちのことでいっぱいになることに、ぼくは恥ずかしさを覚えた。

ぼくとはまっちは、それから、近所の行きつけのファミレスに入った。はまっちが麦わら帽子をとると、はまっちの艶やかな髪が現れて、そこに天使の輪が浮かんでいた。僕はあっと言いそうになったが、あわてて言葉を飲み込んだ。

ここにいるのは、ぼくのイメージの中にある小5のはまっちとは違っていた。成長してきれいな女の子だった。

そして、席を立とうとするその時に、はまっちは決定的な言葉を言った。その言葉の火矢がぼくの胸を刺し貫いた。