「では、また、私の言うとおり言ってみてくださいね」
藤堂先生はこともなげに言う。
「はい」
僕は緊張気味に返す。
「心よ、私は何で催眠を学びたいと思っているのですか?」
「心よ、僕は何で催眠を学びたいと思っているのですか?」
すると、間を置かないで、自分の中から答えが返ってくる。
「『存在の理(ことわり)を知りたいから』と言っています」
そう言いながら、何か中2病みたいな答えだなと思ってしまう。
「心よ、私は何で存在の理を知りたいのですか?」
藤堂先生は相変わらず平静な感じだ。
「心よ、僕は何で存在の理を知りたいのですか?」
「『存在の理を知ってすべてのものから自由になりたいから、特に母親から自由になりたい』と言っています」
「なるほど」
藤堂先生は顎に手をやる。
「では、心よ、なぜ私はすべてのものから自由になりたい、特に母親から自由になりたいのですか?」
「なぜ僕はすべてのものから自由になりたい、特に母親から自由になりたいのですか?」
何だかちょっと頭がぼうっとしてきた。
すると、思いがけない答えが浮かんできたが、これは本当なのだろうか。
「『あのカメラを取り戻したいから』と言っています』」
「面白いね」
藤堂先生は目を輝かせる。
「あのカメラってわかりますか?」
「いえ、よくわかりません」
「続けてみましょう。心よ、あのカメラって何ですか?」
「心よ、あのカメラって何ですか?」
すると、今度は何だか心が激しく揺さぶられたようだ。胸の奥のまた奥から何かが引っ張り出されるような…
「『おじいちゃんが買ってくれた』と言って…あっ」
「どうかしましたか?」
「いえ、小さな頃、僕を可愛がってくれたおじいちゃんがカメラを買ってくれたんです、思い出しました。子どもが持つにはかなり高価なカメラで、僕はとても大切にしていて、寝る時も枕元に置いていて…ところがある日なくなっちゃったんです」
「なくなっちゃったんですね…心よ、あのカメラはどこにいったんですか?」
僕は言葉を繰り返して、心に問いかけた。
すると…
「『母が捨てた』と言っています」
「ここから先は、自分で聞いてみてください」
「心よ、何で母は僕が大事にしていたカメラを捨てたんですか?」
「『嫉妬に駆られたから』と」
「心よ、誰に対する嫉妬?」
「『僕を可愛がる祖父への嫉妬』」
藤堂先生はただ黙って僕の自問自答をじっと聴いていた。
「心よ、何でそこまで母は嫉妬するの?」
「『母は支配者だから』」
支配者?支配者って何?
僕は混乱して、頭がぐるぐるしてきた。