無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 161 イエスセット

「もうひとつ?」

「そう、もうひとつの謝礼。つまり、催眠を教えるということ」

「まだ、あるんですね」

「そうだよ、まだあるよ、いっぱい」

藤堂先生は髪をかきあげながら、言った。

「今度は何でしょうか?」

「催眠の初歩にもなり、催眠的コミュニケーションにもなるもの」

ああ、心が言っていたことはこれだったんだ。

「イエスセットと呼ばれるものなんだけどね」

「イエスセット?聞き慣れない言葉です」

「そうかもしれない。簡単に言うと、相手にとってイエスと言うしかないことを続けて、言っていくんだ、今、試しにやってみようか?」

「はい、お願いします」

自分の内側で好奇心が膨らむのを感じた。

「佐藤君、今日は天気がいいね」

レースのカーテンから明るい光がさしこんでいる。

「はい、そうですね」

「ここに来るまで、歩いてきたのかな」

「歩いてきました」

「そして、君はこの部屋に入って、僕の前のイスに座っているんだね」

「その通りです」

「すると、何だか、呼吸が楽に感じることもあるかもしれないね」

「ええ、そうかもしれません」

何だか、本当に呼吸が楽になってきたような気がしてきた。これって、もう催眠なの?

「どうかな?」

「何だか、ちょっと頭がぼうっとしてきました」

「うん、それはいいね。3つ、相手にとって当たり前のことを言ってから、4つ目にちょっと催眠を喚起する言葉を付け加えるんだよ」

「最後の『かもしれない』という言葉がそれなんですね」

「そう、それ、許容語と言って、『できる』とか『かもしれない』という言葉が大切なんだ、こういう言葉を使うことで、抵抗感をなくせるからね」

「確かに、『しなければならない』とか『べきだ』とか言われたら、抵抗感が出てくるような気がします」

「そうそう、それ」

藤堂先生は微笑んだ。なんか微笑み方が先生の娘さんに似ている、いや逆か。これも催眠にかかってぼうっとしているからかな。

「じゃあ、今度は僕にやってくれるかな、佐藤君」

「えっ、僕がですか?」

ちょっと、顔がこわばった。僕にできるんだろうか?

「まあ、気楽に、お遊びのつもりでね」

「はい。えーと、先生は車で塾にいらっしゃいました」

「そうだね」

「そうして、いつものお気に入りのサンダルに履き替えました」

「ああ、確かに、これはお気に入りのサンダルだね」

「カウンセリングルームに入って、僕の前で催眠を教えています」

「ええ」

「すると、先生の方も催眠をかけながら、ご自分も催眠に入ってしまうそんなことがあるかもしれません」

「いいね、僕もちょっと催眠に入ってきたようだ」

「こんなんでいいんですか?」

「うん、それでいいよ。練習してみて。練習相手がいない時は、自分に対してやってみてもいいかもしれないよ」

「自分に対してですか?」

「うん、自己催眠ってやつだよ」

「自己催眠?」

「そう、催眠の最終目的は自己催眠だからね」

先生は謎のような言葉をつぶやいた。