そうか、あのことが起きる前だったか、はまっちと僕とはまっちの友達と高村君で休み時間にUNOをして遊んだこともあった。
僕の記憶の中では、小学生時代は、はまっちのこと以外は黒く塗りつぶされていたけれども、楽しい思い出もあったんだ。
そう思うと、次から次へと何気ない小さな幸せな思い出が僕の心の夜空に浮かび上がってきて、星座をつくっていくようだ。
ゲームが終わると、テーブルには、もう一度、はまっちの白い箱が登場した。
そして、キャンドルを4本だけ立てて、火を灯し、ライトを消した。
暗闇の中、赤、青、緑、黄の4本のキャンドルがあかあかと輝いている。
「それでは、ひとりずつお願いを言ってから、キャンドルを一本吹き消しましょうか?」
藤堂さんがキャンドルの光を瞳に映し出して言う。
「えっ、声に出して?」
はまっちが躊躇いがちに言う。
「もちろん、そうよ」
藤堂さんは何だかくすくす笑う。
「まあ、いいかな」
はまっちは藤堂さんの笑いが伝染したのか、笑っている。
僕たち男性陣2人は、それを黙って見ている。
「そうね、最初から口に出してお願いを言ってしまうより、最初は心の中で言って吹き消して、皆、終わってからお願いを明かすのはどうかしら?」
「その方が面白いね」
僕と福井君は無言でうなずく。
そうして、藤堂さん、はまっち、福井君、そして僕と、心の中で願いを唱えつつろうそくを吹き消していった。藤堂さんは赤、はまっちは青、福井君は黄、そして僕は緑のろうそくを。
ライトをつけると、何だかとてもまぶしい。
「さて、じゃあ、それぞれお願いを告白する番?」
「何だか、ドキドキするね」
「サッチはそんなすごいことお願いしたのかしら?」
「いや、そんなことないけど」
「では、私から。毎日、私の物語を私が描き出し、その物語に沿って生きられますようにって願ったわ」
「何だか、怜ちゃんらしい」
「サッチは何?」
「うん、そうね、自分の名前を恥じることなく自分の幸せを自分でつくっていけますように」
はまっちは、自分の名前を嫌っていたけど、ついに自分の名前の通り、幸せになっていくことを決心したんだ、何となく、そんなふうに思った。
「福井君は何?」
「僕は、何ものにも支配されないで、風のように自由に生きていくことができますように」
「あなたらしいわね、今、もう一歩を踏み出していると私は思う」
あなたという言葉を聞いて、思わず、はまっちと僕は顔を見合わせて、人のことなのに頬を赤らめた。
「じゃあ、うえっちの番」
まだ、はまっちの顔が赤くて何だかとてもかわいらしい。
「えーと、どこまでも自分が自分らしく生きられますようにってお願いしたかな」
「いいね、うえっち!」
はまっちが右手の親指をあげて、藤堂さんと福井君も僕に微笑んでくれた。
「じゃあ、次は…」