無意識さんとともに

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聖人A 44 改宗へ

僕は、それから、自分でもわからないままに、四谷のI教会に足を運んだ。

ミサに出たのではない。

人のいない時間に行って、ただ長椅子に座っているだけだ。

けれど、毎回、毎回、赤ランプのところから力を感じる。

僕の心は決まっていた、あとはそれを実行に移すだけだ。

僕は、今度は自分から大橋さんに連絡した。

四谷の同じ喫茶店で会うことになった。同じく狭い店内で、大橋さんはブレンドコーヒー、僕はミルクティー

綺麗な紅色にミルクピッチャーから白いミルクを注ぐと、右巻きに渦巻きができる。

僕は、白いミルクが渦が崩れる様子を見ながら、つぶやいた。

カトリックになりたいんですが」

「えっ、今、なんて言ったの?」

カトリックになりたいと言ったんですが」

「うーん」

大橋さんは腕組みをして、次の言葉を発しない。

そうして、永遠にも思われる時間が過ぎた。

「悪いこと言わないから、よした方がいい」

「どうしてですか?」

「自分がカトリックなのにそういうのも変な話だが、カトリックは死にかけた教会だからだ」

「死にかけた教会?」

「そう、同じことの繰り返し。何の力も感じられない。だから、私と妻はトロントに力を求めに行った。そこに、君がわざわざ来るなんて」

「でも、僕はホスチアから力を感じたんです」

「そこだよ、私には到底、信じられない」

その後も、大橋さんとの間で押し問答が続いた。けれど、最終的には大橋さんが折れた。

「わかった、主任神父に紹介するよ」

「ありがとうございます」

茶店を出て、I教会の脇の事務所みたいなところに行った。

大橋さんに待つように言われて、僕は合成皮革の椅子に座って待っていた。

しばらくすると、白髪で黒いスータンを身につけたK神父が大橋さんと一緒に現れた。

僕は神父というものに会うものは初めてだから、ちょっと戸惑った。

それを察したのか、大橋さんが神父に言った。

「佐藤君は、カトリックに改宗したいと言っているんです」

「改宗するには、まず半年間の講座に出なくちゃならないけど、今、時期が半端でどの講座も始まっているからね」

神父は、流暢な、けれど外国語訛りが残る日本語で言う。

「どうしましょうか?」

神父は、何か思いついたように、右手で拳を作って左手のひらを叩く。

「そうですね、あなたがこの人に教えるといいですよ」

大橋さんは、一瞬、困ったような顔をしたが、結局、言った。

「わかりました」

それから、半年間、僕は教会の一室で、毎日曜日、ミサの後、カトリック教会のカテキスム(教理問答書)を教わることになった。