無意識さんとともに

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聖人A 1 クリスチャンホーム

地獄への道は善意で舗装されている

僕は、プロテスタントキリスト教の家庭に生まれた。いわゆるクリスチャンホームというやつだ。今、流行りの宗教2世というわけである。

もっとも、僕の信じているのは、正統派中の正統派を自認する福音派と呼ばれるプロテスタントだし、その後、移ったのも同じ正統派であるプロテスタントの教会には変わりないし、最終的に行き着いたのはカトリックだから、表面上は問題になっている宗教2世とは違うと思っていたりする。

と言っても、中身は大して変わらない。

最後に行き着いたカトリックは別として、献金は十分の一だし、日曜日は朝から晩まで教会で奉仕しなくてはならないし、月曜日ともなるとくたくたで果たしてこれから一週間をやり過ごせるかと思うと絶望的な気分になるのが常だった。

クリスチャンホームと言ったが、父親は、もう僕が小さな頃、どこかに蒸発してしまっていた。父親は、馬鹿がつくほどの善人で、サラリーマンの給料暮らしに嫌になったのか、2度ほど事業を起こしたが、そんな砂糖のかたまりみたいな善人のところに悪人が群がらないはずもない。たちまち、赤子のように手をひねられ、騙されて、何もかも失って、山のような借金を残していなくなった。もしかしたら、もう天国に行っているのかもしれない。

父がいなくなったのは、まだ5歳の頃のことだから、今ではよく顔も覚えていない。けれど、母は、そんな父が必ず帰ってくると信じて、いつも教会の祈り会で父のことをリクエストして、みんなに祈ってもらう。
だから、僕の家は、実質上は、母子家庭だった。

母と僕と4歳下の妹。
僕が生まれてしばらくの頃は、父の事業がうまくいっていて、裕福だったそうだ。何でも、幼い僕は、ピカピカ光る新築の家のだだっ広い一部屋をあてがわれて、「僕は社長になるんだ」と言っていたらしい。

けれど、そんな子供らしい夢はすぐさま粉砕された。

父はいなくなり、母ひとりが朝から晩まで働いて、家は極貧と言えるほど貧しくなったし、クリスチャンホームでさらにいろいろな度重なる不幸で信仰熱心に拍車がかかった母には、社長になるというような夢は、下品で、神様のみこころにかなわないものでしかなかった。

毎朝、僕と妹は朝5時にたたき起こされる。

僕たちは眠い目を擦りながら、正座して、母と3人で朝のお祈りを始める。

「天にまします我らの父よ…」という主の祈りで始まり、それから母が聖書を、旧約聖書を一章、新約聖書を二章読む。

僕と妹がうとうとすると、母はピシャリと腿を叩く。

それから、各自が祈らなければならない。

幼い僕たちは、「今日のご飯はカレーをお願いします、アーメン」とか「神様、ケーキを食べたいです、アーメン」とか無邪気にお願いして、母に睨みつけられる。
そうして、母は、いつもいつも、「優(僕の名前)を神様、あなたに捧げます。どうぞ、あなたの御言葉を伝える者(牧師や伝道師)としてください」と祈るのだった。