僕は、教会の皆の反応の薄さに、心底、がっかりした。
そんな時に、僕より遅れて帰国した大橋さんから連絡があった。
「一度、会いませんか?四谷のI教会の御堂で、待ち合わせましょう」
何でわざわざ、教会の御堂で待ち合わせを言ったのかわからなかったが、断る理由もないので、僕は、その日、四谷駅を降りてI教会の御堂に向かった。
カトリック教会に来るのは、初めてだった。僕は生まれながらのプロテスタントだったから、カトリックに対しては、いろいろな先入観と偏見を持っていた、曰く、行為義認(信仰ではなく行為が義として神に認められること)、聖書の軽視と伝統の重視、マリヤ崇拝…など。
けれど、教会堂に近づくにつれ、僕は不思議な力を感じた。
その力はだんだん強くなっていく。
教会の扉を開けると、ミサは行われておらず、人が誰もいなかった。
『早く来すぎたかな』
僕は、前の方の席に何気なく座った。
そうして、ただ座っていたが、先ほどから感じる不思議な力は、力を増して、僕の心と体の中にぐんぐんと入って、浸透してくる。
どうやら、その力は、教会の右側の赤いランプのところから出ているらしい。
『これは何なのだろうか?』
立ち上がって、赤いランプのところに近づいてみたが、特に変わったものは見られなかった。
僕は席に戻り、また座っていたが、力はとめどなく僕の中に入り込んでくる…
「佐藤君、佐藤君」
誰かが僕の肩を軽く揺すった。
目を開けると、左側に、大橋さんがいた。トロントで見た時と同じように、灰色のブレザーを羽織っている。
一瞬、どこかわからなかった。どうやら、僕は眠ってしまっていたらしい。
目が覚めても、力は容赦なく僕の中に流れ込んでくる。
教会堂を出て、僕と大橋さんは、喫茶店に入った。
都心はそうなのか、イスとイスとの間隔があまり開いておらず、だいぶ狭く感じる。
「トロントから帰ってきてからはどうでしたか?」
「そうですね、あまりうまくいかない感じです」
僕は、教会での出来事を大橋さんに話すと、大橋さんは顎に手をやり、軽く目を閉じてから、つぶやく。
「預言者は故郷では受け入れられないと、聖書に書いてありますからね」
ちょっと鋭い目をして言う。何だか、最初会った時の印象とはだいぶ違っている。こんな、聖書を引用して話す人だっただろうか?
「そうですね」
「新しいワインは新しい皮袋に入れる必要があるのでしょうね」
その後も続けて大橋さんは何か言いたそうだったが、僕はちょっと言葉を遮る。
「I教会の会堂の赤いランプのところから出てくるあの力は、何でしょうか?」
「えっ」
大橋さんは目を丸くして、押し黙った。