私たちは、駅までの道をぶらぶら歩いた。
公園を見やると、3歳ぐらいの子どもたちが、男の子も女の子も砂場で、声を上げながら、お城のようなものを作っていた。近くに、母親らしき人たちがいるが、子どもたちは作ることに夢中で目に入らないらしい。
「公園に寄っていかない?」
怜も福井君もうなずいたので、私たちは大きな木のそばのベンチに腰かけた、わたしが真ん中で、怜は左に、福井君は右に。
今まで砂場で遊んでいた男の子が、砂遊びをやめて、福井君を指差して何かを言っている。
小さな子どもには、黒づくめの福井君は、やっぱり忍者に見えるのかもしれない。
「ミサはどうだったかな?」
福井君はかぼそい声で言った。
「いいところもあったけれど、退屈なところもあったかな」
私は遠慮がちに言った。
「幸子は、アマルガムって言いたいのね」
「アマルガムって」
「水銀と他の金属の合金、入り混じったもの」
わかったようなわからないような気がしたが、アマルガムという言葉の響きに何だか納得してしまった。
「アマルガムかあ」
福井君は頭を掻いて笑いながら言ったが、なんだか苦しそうだった。
「藤堂さんはどうだった?」
「私?私は、いいも悪いもないわ」
「いいも悪いもないって?」
「なんだか、軍隊を見てる感じ」
『軍隊』という言葉を怜が言ったので、わたしは心を読まれたのかとどきりとした。
「軍隊かあ」
福井君もさっきよりももっと苦虫を潰したような顔で笑った。
「福井君はどうなの?」
怜はずばりと言った。
「ぼく?ぼくは…何も感じないし、思わない。小さな頃からこれが当たり前になっているから」
「でも、ふつうではないという感覚はあるんだよね?」
わたしが割り込んで言った。
「そうだね、当たり前と思う自分とふつうではないという感覚と…単に、家の宗教がカトリックというだけなら、ふつうだと思うけど」
わたしたちは息をひそめて、次の言葉を待った。
「ぼくは小さい頃から、神に献げられているんだ」
「神に捧げられている?」
「…神父になるように決められているんだ」
福井君は、血の塊を吐き出すように…言った。
「決められているって誰に?」
「お父様に」
『お父様』という言葉に違和感を感じた。
「どうして?」
「お父様は若い頃、大変な罪を犯して、それで、あの、神様に『生まれてきた子どもはあなたに捧げます』って約束したんだ」
「馬鹿馬鹿しい」
急に怜がふだん言いそうもない言葉を吐いたので、びっくりした。
「それで、福井君はそんな約束を守るつもりなの?」
「わからない、これが祝福なのか、呪いなのか、それともただの運命なのか」
砂場の子どもたちは、もうお城を作るのに飽きてしまったのか、今度はお城を壊して、めいめいで好きなものを作り始めているようだった。