無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 107〜H26 イサク

私たちは、駅までの道をぶらぶら歩いた。

公園を見やると、3歳ぐらいの子どもたちが、男の子も女の子も砂場で、声を上げながら、お城のようなものを作っていた。近くに、母親らしき人たちがいるが、子どもたちは作ることに夢中で目に入らないらしい。

「公園に寄っていかない?」

怜も福井君もうなずいたので、私たちは大きな木のそばのベンチに腰かけた、わたしが真ん中で、怜は左に、福井君は右に。

今まで砂場で遊んでいた男の子が、砂遊びをやめて、福井君を指差して何かを言っている。

小さな子どもには、黒づくめの福井君は、やっぱり忍者に見えるのかもしれない。

「ミサはどうだったかな?」

福井君はかぼそい声で言った。

「いいところもあったけれど、退屈なところもあったかな」

私は遠慮がちに言った。

「幸子は、アマルガムって言いたいのね」

アマルガムって」

「水銀と他の金属の合金、入り混じったもの」

わかったようなわからないような気がしたが、アマルガムという言葉の響きに何だか納得してしまった。

アマルガムかあ」

福井君は頭を掻いて笑いながら言ったが、なんだか苦しそうだった。

「藤堂さんはどうだった?」

「私?私は、いいも悪いもないわ」

「いいも悪いもないって?」

「なんだか、軍隊を見てる感じ」

『軍隊』という言葉を怜が言ったので、わたしは心を読まれたのかとどきりとした。

「軍隊かあ」

福井君もさっきよりももっと苦虫を潰したような顔で笑った。

「福井君はどうなの?」

怜はずばりと言った。

「ぼく?ぼくは…何も感じないし、思わない。小さな頃からこれが当たり前になっているから」

「でも、ふつうではないという感覚はあるんだよね?」

わたしが割り込んで言った。

「そうだね、当たり前と思う自分とふつうではないという感覚と…単に、家の宗教がカトリックというだけなら、ふつうだと思うけど」

わたしたちは息をひそめて、次の言葉を待った。

「ぼくは小さい頃から、神に献げられているんだ」

「神に捧げられている?」

「…神父になるように決められているんだ」

福井君は、血の塊を吐き出すように…言った。

「決められているって誰に?」

「お父様に」

『お父様』という言葉に違和感を感じた。

「どうして?」

「お父様は若い頃、大変な罪を犯して、それで、あの、神様に『生まれてきた子どもはあなたに捧げます』って約束したんだ」

「馬鹿馬鹿しい」

急に怜がふだん言いそうもない言葉を吐いたので、びっくりした。

「それで、福井君はそんな約束を守るつもりなの?」

「わからない、これが祝福なのか、呪いなのか、それともただの運命なのか」

砂場の子どもたちは、もうお城を作るのに飽きてしまったのか、今度はお城を壊して、めいめいで好きなものを作り始めているようだった。