無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 169 変容

さっそく、次の日曜日、僕は神楽坂さんと佐伯さんと、かわるがわるイエスセットを使った催眠喚起を練習してみた。

まず、神楽坂さんと佐伯さんに、僕が実演してみた。それから、神楽坂さんが佐伯さんに、佐伯さんが僕に…という具合にやっていく。

神楽坂さんも佐伯さんも、僕の説明と実演だけで、こともなげにできてしまう。

「『初めに言葉があった』と言われているが、面白いね。こんな言葉だけで催眠に入ることができるとは」

神楽坂さんは、とても愉快そうに言う。

「私もびっくりです。催眠をかけられていい気持ちになるのはもちろんですけど、自分が人を催眠に入れられるなんて思いもしませんでした」

佐伯さんは、最初は何だかお付き合い程度にやっていたはずなのに、何だか急に興味を示してきたようだ。

そんなふうに、催眠をお互いに練習していくと、お互いの間にあった透明で薄いけれども、乗り越えられない壁のようなものが、知らないうちに消え去っている気がした。

「上地君、なんだかおもしろいね。催眠やっていたら、頭がクリアになって、心もスッキリしてきたような気がする」

「そうだなあ、ここ最近で、佐伯さんの顔がまた、何だか変わってきたみたいだ」

「ええっ、どんなふうに?」

「ちょっと前は、風にたなびく白い花のようだったけど、今は…」

「今は、何?」

「大地にしっかり根を張る若木のような感じ」

「そうかあ、白い花はそれはそれでうれしいけど、根を張る若木かあ、なんかじわじわくるなあ」

こんなにナチュラルに、佐伯さんと話せたのは久しぶりな気がする。いや、もしかしたら初めてなのかもしれない。

「上地君も何だか変わってきているよ」

「自分じゃ、イマイチ、わからないけど」

「前は、雨に濡れて震える子犬のようだったけれど…」

「ええっ、それはあんまりだ」

佐伯さんも僕も声に出して笑った。

「今じゃ、若い雄ライオン」

「雄ライオン、それはほめすぎじゃないの?」

「まあ、確かに落差がかなりあるのは事実ね」

何だか、そんな会話を交わしているうちに、僕は佐伯さんと本当に友達になれた気がした、距離が近すぎる依存ではなく、距離が遠すぎる無関心でもなく、お互いがお互いでいられるちょうど良い心地よい距離。

『心よ、これも催眠のおかげ?』

『そうだよ、催眠というのは、私に出会うことだからね』

『心よ、それってどういう意味?』

『私と出会うものは、自分の中に宝石の原石を見つけて、王冠にはめて、変わっていくんだ』

心の言っていることは頭ではよくわからないが、腹では腑に落ちるような気がした。

見上げると、秋空の青さが目に染み透るようだ。