無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 209 僕の誕生日4

それから、僕が催眠をはまっちにかける番だったが、なんだか脱力してしまって無理そうだった。

「うえっちが私にかけるのは、また今度でいいわ」

「ごめんね」

「ううん。それより、何だかとても眠そうだから、ちょっと眠るといいんじゃない?」

僕は、ちょっと戸惑ったが、この眠気には勝てなかった。

「ブランケットと枕を持ってきたわ」

青いブランケットと、ピンクのカバーの枕だった。『もしかして、このブランケットと枕ってはまっちのもの?』と尋ねたかったが、ためらわれた。

僕は、おとなしく、畳の上に横になり、頭を枕に載せて、ブランケットを身体にかけた。

はまっちの匂いに包み込まれるようだった。

最初、それは心にさざなみを立てるようだったが、そのうちに僕は何だか、そこに安らいで行って、意識が消えた。

夢のない眠りを眠って、自然と目が覚めた。

台所から、トントンと包丁で何かを切る音と、美味しそうな匂いがただよってくる。

起き上がって、丁寧にブランケットをたたみ、その上に枕を置いた。

そうして、眠い目を擦っていると、ガラガラとはまっちが入ってきた。

「起きたのね。よく眠れた?」

「とてもよく眠れたよ、ありがとう」

「もうすぐ、できるから、後ちょっと待っていてね」

「ところで、この枕とブランケットってはまっちの?」

「うん、そうだけど。どうしてわかったの?」

「だって、はまっちの匂いがしたから」

僕は言わずにしておこうと思ったことを、つい、口に出してしまった。

「おまわりさん、ここにヤバい人がいますよ〜、アハハ」

はまっちは、さもうれしそうに笑う。

はまっちはキッチンに戻って、また、料理に取り掛かった。

僕は、近くのカラーボックスの本を物色し始めた。

料理の本に紛れて、僕も読んでいる「ミルトン・エリクソン催眠療法」の本もあった。引き出してみると、たくさんの色とりどりのポストイットが貼られている。

僕は、ペラペラめくって、はまっちがポストイットを貼っているところを読んでみる。

「参加者:自分がトランスに入れば、相手をトランスに入れることは簡単なものだと感じました。

…トランスに入っていると、催眠の誘導文句が簡単に浮かんでくるものなのです」

藤堂先生が言っていた『他者催眠は自己催眠であり、自己催眠は他者催眠』という言葉を思い出す。

僕は、その真っ白な表紙の本を料理の本の間にしまいこみ、今度は、薄青の文庫本を引っ張り出した。

春の嵐」(ヘルマン・ヘッセ高橋健二訳)

あまりに懐かしい本。僕とはまっちの始まりの本。

めくっていると、色々な感情が僕の中に去来する。

それに浸っていると、はまっちが入ってきた。

「はい、これが今日のお品書き」

ケント紙のような紙に、サインペンで書かれたものを、そっと僕の前に置いた。