高校3年生の日々は、あっという間に過ぎていく。
気がつくと、もう7月に入っていた。
意識しないようにしようとしても、どうしても意識してしまう、7月7日、織姫と彦星が天の川で出会う、そしてはまっちと僕にも何かしら大きな意味を持つはずのその日が迫ってくる。
もちろん、いろいろなものから解き放たれた僕たちにとっては、17歳の7月7日に、あの小屋でもう一度会おうということは、誓いでも約束でも、ましてや予言でもなく、僕たちの自由な選択だった。
図書室の貸し出しカウンターで、同じクラスの女子の図書委員と座っている僕の背中に、誰かが手を触れる。
僕が振り返ると、静かな微笑みに出会う。
「うえっち、7月7日、いい?」
隣の女子は、ことさらに注意を向けることなく、返却された本の山をチェックしている。
「もちろん、いいよ」
そう言えば、僕たちが会うはずだったあの小屋はもうない。僕たちはどこで会ったらいいのだろう?
「じゃあ、12時半に司書室でね」
7日はちょうど、期末試験の最終日だった。
「どこに行くの?」
「たぶん、うちになるかな」
僕はちょっと緊張した、はまっちのアパートに行くのが2回目であっても。
「わかった」
「じゃあ、その時にね」
「その時にね」
はまっちは、そう言って、司書室に引っ込んだ。
「一緒に、これ片付けてしまおうか?」
僕は本の山と格闘している寺田さんに声をかけ、一緒にチェックを始めた。
今さっきのはまっちと会話を心の中で繰り返していた。
後から振り返ると、その何気ない会話がそこだけ急に時間の流れが緩やかだったようなそんな感覚を覚える。
司書室からは、時折、はまっちの声が聞こえてくる。
…
受験生だから、期末テストと言ってもそんなに時間を割いていられない。
まして、受験勉強以外に、無限塾のチューター業務まである僕は、さっさとできるだけのことだけ準備して試験に臨んだ。
こんなふうに優先順位をつけて、自分の力を配分できるようになったのは、催眠のおかげとしか考えられない。
前の自分だったら、全部のことを完璧にやろうとして、行き詰まって混乱状態になってしまっただろう。
『ほんとよくやってるね』
ふいに、心が声をかけてくる。
『心よ、君のおかげだよ』
『どういたしまして』
『心よ、これから僕はどうなるの?』
『未来のことはわからない、ただ、君は自分で選択して、自分で選択したことを淡々とするだけ。そうして、次の道が開けてくる』
『心よ、そんなんでいいのかな?』
『そんなんでいいんだよ』
七夕の日は明日に迫った。