僕とはまっちは、みなとみらいで降りる。
ランドマークタワーの中の店をウィンドーショッピングしていく。
「なんだか、本当に未来の都市みたいだね」
「そうね。とても非日常的な感じで、うえっちと私で時間のはざまを漂うタイムトラベラー見たいね」
はまっちは僕の思ってもみないことを口にする。
「タイムトラベラーか、そう言えば、あの小屋で未来の自分たちのような人たちが現れたことがあったね。あれは何だったのか、今でもそう思うよ」
「私も、最近、そのことを考える。自分があの時よりも未来の私に近づいているせいか、前よりしきりに思い出すのかしら」
『あれっ、はまっちってこんな大人っぽい言葉づかいをしたんだろうか』、そんなことを思ってしまう。僕の知っているはまっちと僕の知らないはまっちが、頭の中で交錯し、点滅する。
そんなことを思っていると、はまっちは急に足を止めて、ひとつの店のウィンドーのところに張り付いて動かない。
何を見ているのかと思いきや、純白のレースでできたウェディングドレスをじっと見ている。
今さっき大人のはまっちを感じたばかりなのに、今度は、まるで小さな女の子が夢見る瞳で見入っているかのようなそんな感じだ。
はまっちはウェディングドレスを見つめる、僕はそんなはまっちを見つめる。
そうして、しばらくして、はまっちは驚いたように僕の方に顔をあげる。
「どれくらいの間、見ていたのかしら?」
「いいんだよ、見たいだけ見ていて」
「優しいのね」
「はまっちの誕生日だからね」
「ありがとう」
子供たちとビジネスパーソンはじっとしておれず、動く歩道の右側を早足で歩いていく。
僕たちは、左側で動く歩道に身を任せ、じっとしていた。
途中、左手に海に浮かぶ氷川丸が見えてきた。
風がはまっちと僕の前髪を揺らす。
海とはまっちの入り混じった匂いが僕の鼻と心をかすめる。
「お腹空かない?」
「そうね、空いたわ」
本当は、貯金してあるお金をおろして、ランドマークタワーにある有名なフレンチレストランに行こうかと思ったが、今の心地よい距離感を壊しそうで流石にそれはためらわれた。
ランドマークタワーを出て、僕たちはこまごまとした路地を歩いた。
「どこの店に行くのかしら」
「秘密、秘密」
僕たちは、ちょっと古めかしい、歴史を感じさせる洋食屋の前に来た。
「○○グリルじゃない?」
「はまっちが来たいと思って」
僕は司書室で、はまっちが横浜特集の雑誌の1ページを他のページよりも長く見ているのを見逃さなかったのだ。