無意識さんとともに

https://stand.fm/channels/62a48c250984f586c2626e10

催眠!青春!オルタナティヴストーリー 192 クリスマスパーティの準備

藤堂さんがしてくれた催眠で、僕とはまっちは何だかぼうっとしてしまって、加えて催眠の練習をすることはできなかった。

きっとまた、する時があるのだろう。

僕がはまっちに、はまっちが僕に催眠をかける機会が…遠からず将来に。

そんなわけで、僕たちはクリスマスパーティの準備を始めた。

カフェテーブルではなく、折りたたみテーブルを2つ出して、そこに料理を並べ始めた。

はまっちは、僕のタッパーを開けて、目を丸くした。

「ほんとにこれ、うえっちが作ったの?信じられない」

「そうだよ、ふだん、自分の食事を作り慣れてるからね」

そんなことを言うと、母のネグレクトに胸の痛みを感じると思ったが、不思議にもう何も感じな口なっている。むしろ、僕は胸を張って堂々と言った。

「やるじゃん、料理ができる男なんてかっこいい」

「そうかな?」

僕は知らないうちに満面の笑みを浮かべていた。

「じゃあ、私も出そうかな」

「何を?」

「ジャーン、どうでしょう?」

はまっちは、紙の手提げ袋から白い箱を取り出した。

「これって、もしかして?」

「もしかして、さあ、何でしょう?」

「クリスマスケーキ!」

思わず、声が裏返そうになる。クリスマスだからケーキなんて当然のはずだが、我が家ではそんなものはお目にかかったことないから。

「ほら、どうかな?」

はまっちは、箱をそっと開ける。白い生クリームでイチゴが飾られたデコレーション。

「もしかして、はまっちの手作り?」

「もしかしないでも、そうよ」

「まるで、売っているケーキみたい、いやそれ以上だよ」

「それはどうも、ちょっと頑張っちゃった」

「受験生なのに?」

「受験生なのにね、うえっちが喜ぶと思って、もとい、みんなが喜ぶと思ってね」

僕は、さすがに、目の端に涙が溜まってきていることに気づいた。

「もう、うえっちったら、大袈裟なんだから」

「大袈裟も何もね」

そんな会話をしていると、藤堂さんがキッチンから、オードブルの入ったお皿とチキンとお寿司を次々に運び、所狭しとテーブルに並べていく。

どうやらこれも手作りらしい。

「ずいぶん、仲が良さそうね」

僕とはまっちはお互いを見つめて、何だか赤くなってしまう。

すると、急に、ピンポンと家のチャイムが鳴った。

「彼が来たみたいね」

僕はちょっとびっくりした。

藤堂さんがお客さんを迎えに行っている間に、はまっちの耳元にささやいた。

「彼って誰?」

「ほら、無限塾で一緒だった、福井君って覚えてる?」

神父志望の、忍者みたいに黒づくめの姿の、生真面目な姿が頭に浮かぶ。

「福井君だったっけ」

「そうそう」

「でも、『彼』っていう言い方は?」

「そりゃ、付き合っているんだもの、当然よ」

「えー、藤堂さんと福井君が?」

「びっくりすることでもないわ、お似合いよ」

藤堂さんとあの福井君が…時代は確かに動いているのかもしれない。