その世界では、水がすごく貴重なものだったんです。
確かに水がなければ生きていけないのに、あたりは砂漠で水は手に入れられない。
人々は、水を手に入れることにエネルギーと時間を使い尽くして、その短い一生を終えていました。
水をたくさん持っている人は、「大水持ち」と言われ、みんなの羨望の的でした。
また、時おり降る雨の際に、大きな器を持って、雨をたくさん貯められる人ほど、「水カリスマ」として、人々に崇められていました。
「水貧乏」の家に生まれたその少年は、持っているのは小さな壊れかけた器だけで、雨の水をほとんど貯めることができませんでした。
少年は、毎日、「大水持ち」や「水カリスマ」のところをまわって、乞食のようにおこぼれをもらっていたのです。
満天の星が輝く夜、少年は貯めていた最後の水の一滴がなくなろうとしていました。
少年はもう自分で自分をあきらめようとしていました。
『ぼくはひとりぼっち、水はない、誰もいない』
その時、微かなしかしはっきりした声が聞こえました。
『ぼくはここにいるよ』
少年は怪訝そうに尋ねました。
『誰なの?』
『ぼくはあなた、あなた以上のあなただよ』
少年は自分が死にそうだから、こんな声を聞いているのだと思いました。
『ふざけないで、もうぼくは死んでいくだけなんだよ』
『あなたは死なないよ、たとえ、あなたが自分を見捨てても、ぼくはあなたを見捨てないよ』
『足元を掘ってみて』
少年が足元を掘ると、そこから水が湧き出して、
みるみるうちに川となって流れてきました。
さらに、水かさが増して、
足首に達し、
膝に達し、
腰に達してきました。
『あなたが掘ったから水は湧き出たんじゃない、川は最初からあったのさ。ぼくはあなた、あなた以上のあなただからね』