無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 46〜流されて

小屋の中に、植物が生い茂って、いろいろな花も咲いている。花の名前はわからないが、あれはハイビスカス…左側に赤い花がいくつかかたまって姿を見せている。

「植物園みたいね」

「植物園なのか、南国の楽園なのか」

「ステキ」

「とにかく入ってみよう」

小屋に足を踏み入れると、温かい空気が頬を撫で、植物の生気が感じられた。

部屋のどこかで鳥の声もする…部屋の中なのに。

「鳥の声、こんなところで?」

「もしかして、カワセミ?テレビで鳴き声を聞いたことがある」

そんなふうに、会話していると、ふたりの目の前を瑠璃色で一匹はお腹がオレンジになっているカワセミのつがいが横切って行った。

カワセミがいるってことは川が流れているのかしら」

「部屋の中だよ、ありえないよ」

そう思ったが、微かに川のせせらぎが聞こえて、水の匂いが風に乗せられてただよってくる。

そちらの方向に引き寄せられたのか、はまっちがふらふらと歩いていく、まだ眠いのだろうか。

ぼくも後から慎重についていく。

濃い緑の植物を何重にもかいくぐっていくと、水の奏でる音はますます大きくなっていく。

「こっちよ」

ぼくは無言でただ歩を進める。

足元が木の床のはずだったのに、だんだんと何か石ころのようなものが感じられてきて、目の前の光が明るさを増していく。

ぼくたちは河原に立っていた。

日差しが照り付けていて、はまっちはぼくが貸していたPコートを脱ぎ、それでも足りないのか、Gジャンも脱ぎ、さらにシャツの袖もまくった。もちろん、ぼくも袖はまくったが。

そうしてから、あらためて前を見ると、大きな川が紺碧色に輝きながらゆったりと流れている。向こうには、川を渡してある木の橋もある。

はまっちはもう我慢できないのか、走り出す。ぼくも後から走り出す。そうして川辺まで来ると、靴もソックスも脱いで、澄んだ川の水に足を浸した。

「気持ちいいわ、なんだか嫌なこと全部消えてゆくみたい」

「ぼくも頭がぼーっとして、元々、どこにいたんだっけ?」

「さあ…わからないけど。楽しければいいんじゃない?」

そう言われると、ぼくもとても愉快な気持ちがしてきて、自分がどこの誰とかどうでもよくなってきた。

ぼくたちは川の浅瀬ではしゃいだ、水をかけあって遊んだ、どこかで同じようなことをした気もしたが思い出せなかった。

「もう、何がどうでもいいわ」

はまっちがそう言ったが、やけっぱちな気持ちは言葉に微塵も感じられず、ただ太陽のような笑顔がそこにあった。

そう言って、はまっちは小さな岩から川に飛び込んだ。

ぼくははまっちの大胆さにちょっと怯んだが、はまっちは水の中から大声で叫んだ。

「うえっちもおいでよ、気持ちいいから」

「うん」

ぼくはおそるおそる飛び込んだ、水の中に体が沈み込むと澄み切った水の中が見えた、川魚も泳いでいるようだ。

水面に浮かび上がって、はまっちの隣に仰向けに並んでいた。この水はとても軽い感じがして、まるで雲のうえに浮いているようだ。

そうやって、両手両足を広げて、ぼくたちは水の流れに逆らわず、ただただありのまま、そのままで流されていく。

どこかで、赤ん坊の泣く声が聞こえた。