無意識さんとともに

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本来の自分に戻るスクリプト〜呪いという催眠から覚める催眠

おいらは野良猫

くすんだ灰色のどら猫さ

どら猫と言ってもそこらを荒らし回る堂々としたどら猫じゃなく

ものかげに隠れて強い猫のおこぼれを掠め取る弱虫のどら猫さ

 

嫌われないように

目立たないように

我慢強く

それがママの教えだった

 

「いいかい、お前はくすんだ灰色の猫なんだから、間違っても勘違いしちゃいけないよ。思いあがっちゃいけないよ。生きていくには、嫌われず、目立たず、我慢強くだよ。」

 

その日も、おいらは漁港にいた

潮風が顔を撫でていく

ちょっと心臓がドキドキしてた

 

漁師のおじさんが残しておいた小魚を

次から次から持っていく強そうな猫たち

おいらは建物からちょっとだけ顔を覗かせて様子をうかがっていた

スースーと呼吸をしてた

 

最後に残った小魚を確認すると

その一番、小さなちっぽけな魚をさらった

口にくわえて一目散に逃げ

公園の片隅でむしゃぶりついた

 

ガリガリ

ちっぽけな魚が骨っぽく

身がほとんどついていない

すきっ腹のお腹は満たされず

食べても食べていない感じがした

 

その時

公園のベンチに男の子がいるのに気がついたんだ

真っ白なシャツに半ズボンを履いて

ダークグリーンのバッグからお弁当箱を取り出していた

 

おいらはなぜか固まってしまってそれを見つめるばかり

男の子はお弁当を食べ終わると

青いプラスチック容器も取り出して

鮮やかなうす緑色のものにフォークで刺して口に運んだ

 

『メロン!』

すべての猫の憧れの食べ物

高貴な猫だけに許される食べ物

 

その食べ物が目の前にあるのを見て

ふらふらと近寄り

「にゃあ」と鳴いたんだ

 

男の子はこちらを見て

首をかしげ

口の端にちょっと笑みを浮かべて

あろうことかメロンにフォークを刺して

「おいで」と言った

 

おいらは子供にいじめられた過去の記憶が蘇りながらも

メロンに魅せられて

男の子に寄っていった

そうして

メロンをくわえて

けれど恥ずかしくなって男の子に鳴くこともせずに逃げたんだ

 

走って走って

景色はどんどん流れていく

お日さまはまだ高く首にあたる日ざしがあつい

 

ようやくお昼過ぎのひっそりとしたビルの出口の自動ドアの前にやってきた

ゼーゼーと息を切らし

ちょっと後悔する気持ちを心に感じながら

でも目を輝かせながら

みずみずしい薄緑色の果物にかぶりついた

 

なんとも言えない香り

口の中に広がる果汁

夢中になって食べながら

ふと目を上げると

 

目の前に白い猫がいた

そして同じようにこちらを見つめている

その白猫の脇を見やると

やはりそこには緑色の果物がある

 

『しまった、ぐずぐずしている間にメロンが奪われたんだ』

目の前の白い猫に毛を逆立てて威嚇すると

白い猫も威嚇してくる

引っ掻こうとすると向こうも引っ掻こうとしてくる

びっくりして後ずさりすると向こうも後ずさりする

 

『何かおかしいぞ』

試しに自分のしっぽ目がけてぐるぐる回ってみると

白猫もぐるぐる回っている

あんまり回りすぎて目が回ってへたり込むと

白猫もへたり込み

こちらを見つめている

 

『これはどういうことだろう?』と思ってみる

すると、老猫が言っていた言葉が思い出される

「自分の本当の姿を映し出すものがあってな…』

これがそうなのだろうか

心の奥の奥のまた奥から

『これが本当のお前の姿』と聞こえてくる

 

あらためて映っている自分の姿を見てみると

真っ白なすらりとした身体とサファイヤのように青い湖のような瞳

歩き方もするりするりと上品さを感じさせる

高貴な猫がそこに映し出されている

「信じられないわ、これが私なんて」と思わずつぶやきながら

いつのまにか、自分の喋り方が変わっているのに気がつく

『どういうこと?私は前は自分のことをなんて呼んでいたのかしら?』

 

けれど、もうどんなに思い出そうとしても思い出せない

『これって夢なの?魔法なの?、夢だったらそのうち覚めるわよね』

その時、はっきりと、自分の内側から、

『夢でも魔法でもない、これが本当の現実のお前の姿なんだよ』と声が響く

『それなら、母親が言っていたことは?』

『あれは、お前を縛る呪いだったのだ』

なぜか、ブルっと身震いして、もう自分が何色の猫だと思っていたのかさえ分からなくなってしまった

 

燦々と照る光の中を

輝く白猫が、しっかりと足の裏に大地を踏みしめながら、自由に伸びやかに歩き去っていきました

後にかじりかけのメロンを置き去りにしながら