無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 7

正門をくぐると、消毒液のにおいがした。ぼくたちは見つからないように、右脇の小道から森の中へ入っていった。夏なのに、何だかひんやりとした感じがする、ほんとに温度が低いのか気持ちの問題なのかわからなかったが。

いつも、カブトムシやクワガタを取るぶなの木が固まって生えているところを左に周りこむと、埋め込んでいる石の小道があった。最初の石に足をかけた時、心の中に『今ならまだ引き返せる』という思いが駆け巡った。

けれど、ぼくはそんな思いを振り払って、ずんずんと小道を進んで行った。夕闇のおぼろな視界の中に、あの小屋はあった。

「きゃっ」

急に、はまっちが叫んだので、何ごとかと振りかえると、はまっちは眼を見開いて戸を指さした。

目を凝らしてみると、小屋の戸に蝉の抜け殻がついていた。

『こんなものがこわいなんて、はまっちも女の子なんだなあ』とぼくは心の中で思ったが、何だか口には出せなかった。

ぼくは、蝉の抜け殻を手にとって、近くにあるナラの樹の根元を手で軽く掘って埋めた。

頭の中では、女の子という言葉がぐるぐる渦巻いて心臓の音が聞こえると思えるぐらい、脈打っていた。

 

もう小屋には誰も来なくなっていたから、南京錠はちょっと錆びついていた。ぼくは何度から、斜め右に引っ張ったが、ついにはカチャッと音がして外れた。

戸を引いて入ると、薬品のにおいに混じってカビ臭いにおいもした。森の中だからか、さらに薄暗い。天井から垂れている裸電球のスイッチをひねると、灯りがついた。

「思ったより広いんだ」

ぼくは椅子のほこりを手で払うとはまっちにすすめた。

「なんか、なかったかなあ』

ごそごそと棚の右側を探した。

「あった」

ぼくは棚から引っ張り出してテーブルの上に置いた。

「泉屋のクッキー!」

白と紺のストライプで、中心に浮輪?のような絵が描かれた缶の周りのテープを剥がして開けると、いろいろな形のクッキーが並んでいた。だいぶ前に宝物として持ち込んでいたものだった。

「どうぞ」

「では、遠慮なく」

はまっちはかしこまって、でも真ん中のドーナツ型のドライフルーツが宝石のように埋め込まれているクッキーを手にした。ぼくの1番好きなクッキーだ。

そしてなんとも言えない神妙な顔つきになった。

「どう?」

「…」

ぼくも同じクッキーを一枚取って、かじった。しけていて、この小屋の中と同じにおいもした。

「まずい」

思わず、口から吹き出しそうになった。

「でしょ?」

それから、ぼくたちはツボにはまってしまったのか、何がおもしろいのか笑い転げた。

「窓を開けましょう」

はまっちは大人びた言い方で言って、窓の銅でできた金具を回して、ギーギーと音をさせて窓を引っ張った。