帰りに病院のトイレに寄ってから、ぼくたちは小屋に戻った。
小屋に着くと、はまっちはテーブルの上に買ってきたものを置きながら、つぶやいた。
「ここが私たちの居場所…」
ぼくはあえて答えないようにした。それから、ぼくたちは唐揚げ弁当のフタを開けて食べ始めた。弁当は作られて時間が経っているせいか、ちょっと冷たかった。
「スーパーの電子レンジで温めればよかったね」
「そう?これで十分」
はまっちはご飯のかたまりを飲み下しながら言った。ふと見ると、目に涙が溢れてたちまち頬に銀の糸のように流れた。
「家の人は心配してるかな」
「…心配してるわけないわ。ただ、学校から連絡があったら世間体のために大騒ぎはしてるかもね」
「そうだね」
「うえっちの家は?」
胸に痛みを感じた。
「聞かなくてもわかってる…よね」
「そうね…ごめんなさい」
はまっちの目からまた涙が溢れて、銀の糸が二本重なった。
向かい合わせに座っていたぼくは立ち上がって、はまっちの横に座ってポンポンと背中を優しく叩いた。
はまっちはふーと息をはいた。そして、長いまつげの目を瞬かせた。
「なんだか、赤ちゃんみたいね、わたし」
「ぼくも同じだよ」
はまっちは自分の右手をそっとぼくの左手とクロスさせて、ぼくの背中を同じようにポンポンと叩いた。
「お返し」
「ありがとう」
そうしてるうちに、何だか身体から力が抜けて、母親のことも学校のことも…隣にいるはまっちのことさえも忘れて、とても眠くなっていった。
『ああ、また』
眠りに落ちる瞬間、ぼくはそう思った。
…
目が覚めると、とても温かいものに包まれている気がした。左を見ると、今度は変わらない小5のはまっちがいた。
ところが、後ろを振り返ると、誰だか知らない男の人がぼくを後ろからハグしている。
温かさが体と心の中にジーンと伝わってきた。
さらに、はまっちの後ろに見たことがあるようなないような女の人がいてはまっちの背中を抱き抱えている。
声を出そうとして声が出ない。
『いったい、これは何?』とやっとのことで思考をまとめたが、すでに答えは知っているような気がした。
そのうち、はまっちも擦りながら目を覚ましたが、同じく声を出せないのか、びっくりした顔でこちらを見つめるだけだった。
辺りは、変わらないオンボロの小屋の中だったが、部屋の中には薔薇の香りが漂っていた。
「君たち、やっと起きてくれたんだね」
「あなたたちが起きてくれてうれしいわ」
と最初に男の人が、次に女の人がなぜかとても懐かしい声で言った。