はまっちの手は柔らかくてあたたかった。ぼくは背中に置いてくれた手のことを思い出した。でもそれだけじゃなくて、ちょっと汗をかいているようだった。
「こわかったの?」
「ううん、こわくはなかったけど」
ぼくは何だかわからないが、はまっちの手をぎゅっと握りしめた。
「吊り橋効果?」
「何それ?」
「ほら、こわい目に会うと、相手のことを好きだと錯覚するやつ。よく少女マンガに出ているんだ」
『錯覚じゃないよ』とぼくは心の中で思ったが、口に出せるわけもなかった。
「どうなんだろう?」
「そう言えば、フォークダンスの時もうえっちと手を握ったよね?」
「そうだったけ?」
ぼくは運動会のマイムマイムで、最後の最後ではまっちがぼくの前に来たことを忘れるわけもなかった。何だか心がわなないてはまっちの目をまともに見ることもできなかった。あの時は、自分がどうしてそんなに動揺しているのかわからなかったが。そうして、ぼくたちが踊った後、音楽は鳴り止んで、運動会も大団円となったのだった。
「なんか、うえっち、すごくぎこちなくて笑いを抑えるのが大変だったんだから」
「そんな変だった」
「そう、もう不審者レベル、緊急用ブザー持ってたら鳴らすぐらい」
はまっちは我慢できないという感じで笑い出した。
「それはひどすぎるんじゃないか」
「だから、おわびにもう一度、手を握らせてあげているんじゃないの」
「えっ、ああ」
「手を離さないでよね」
「…うん」
こうやって、はまっちの手を握って、はまっちの歩くペースに合わせていると、何だか呼吸のタイミングまで合ってきて、心臓の脈打つ鼓動まで重なっているような気がした。
辺りは暗くなってきていたが、心の奥はぼうっと明るかった。
ぼくは永遠にはまっちと歩いていたかったが、いつの間にかスーパーの入り口のところにやってきた。
人がごった返していて、何だかキラキラと明るかった。ぼくたちが長くいてはいけない場所のような気がした。
ぼくたちはつないでいた手を自然と離していた、誰かにそうしているのを見られているのが怖かったから。
中に入ると、カゴを一つとり、誰にも目を合わせないようにして、お弁当コーナーのところに行った、はまっちは唐揚げ弁当を2つ取り、またパンコーナーでサンドウィッチを2つカゴに入れた。
会計を済ませると、今度はスーパーの中にあるドラッグストアで何やらいろいろと買っていた。ぼくは子犬のようにおとなしく、店の外で待っていた。
「お待たせ、行こう」
はまっちは自分から手を伸ばした、ぼくははまっちの左手を取った。
ぼくたちは手をつないだまま、夕闇の中へ飛び出して行った。
「