ぼくは、佐伯さんと、約束の場所、つまり家のすぐ近くの某ファミレスまで歩く。中学生で帰りにファミレスに寄るなんてマズイ気も少しはするが、もうどうせ、不良と思われているんだし、構やしないよなと思ってみる。後ろをついて来ている佐伯さんにいたっては、そんなことも考えないかもしれない。
新青梅街道を、歩道橋を使わずに渡り、右折して道なりに歩く。
「部長〜、待ってくださいよお」
後ろから佐伯さんの悲鳴が聞こえる。
思わず、後ろを振り返ると、佐伯さんはかなり離れたところにいた。それから、ぼくが振り返っているのを見て、小走りでやって来た。
「なんて歩くの早いんですか、まるで競歩の選手みたいじゃないですか」
ぼくは、お前が歩くのが遅いんじゃないかという言葉を飲み込み、苦笑いをする。
「それより、約束の時間が近いから、急ごう」
佐伯さんは遅れないように、なるべく横に並んで歩こうとする。
「部長の家、このあたりなんですよね?」
「お前、変なこと考えるなよ」
つい、お前という言葉が出てしまう。
「バレちゃいましたか」
「勝手に家に来たら、警察に通報するからな」
「ひどーい」
あまりにお決まりの言葉に笑うしかなかった。そうこうしているうちにあの白いスーツのおじさんが立っているフライドチキンのお店を過ぎて、あまりにマイナーなチェーンのファミレスが見えてきた。
腕時計をチラッと見ると、約束の時間より5分前だ。よし、大丈夫だと、ドアを押して入る。舌を出したあの女の子のキャラの等身大の人形がお迎えしてくれる。
店員の女性に、「おふたりですか?」と聞かれて、「いえ、3人です」と答えながら、店内を見回すと、窓際の女性がこちらに軽く手を振ってくる。
神楽坂さんは、テーブルについて、すでに紅茶を飲んでいた。
『アールグレイかな』、柑橘系の香りが鼻をくすぐる。
ぼくたちをこれから悪戯に取り掛かろうとする猫のような目で見つめてくる。
「あら、おふたり?」
「えっと、こちらは部員の佐伯紗奈さん」
ぼくはちょっと緊張気味に言う。
「そっか、また君が新しいガールフレンドを連れて来たのかなと思った」
「ちょっと、神楽坂さん、誤解を招くようなこと言わないでくださいよ」
「失敬、失敬。上地君は、理想の君一筋だったよな。だから、私の誘いにも乗らない鉄壁の男だったということを忘れていたよ」
さも、おかしくてたまらないように言う。
ずっとぼくたちのやりとりを聞いていた佐伯さんも緊張から解けたのか、コールドスリープから覚めた人のように、言葉をやっと挟んでくる。
「佐伯紗奈です、神楽坂先輩、どうぞよろしくお願いします」
「神楽坂亜矢だ、どうぞよろしく」
いつの間にか、立って、佐伯さんに右手を伸ばしてくる。
「先輩、何だか、かっこいいですね」
佐伯さんが神楽坂さんの手を握りながら、頬を赤らめる。
こんな佐伯さんを見たのは初めてかもしれない。