帰り道、怜のパパの車に乗りながら、わたしは今日のことを考えていた。
うえっちは、わたしの告白にすぐには返事をしてくれなかった。あの時、浮かべていた苦しげな表情が頭を離れない。
そして、教室に着いた時、うえっちはわたしの手を振り解いた。それから、周囲を気にして見回したのに、わたしは気づいてしまった。
車の後ろに、わたしは怜と座っている。怜のパパが運転していて、隣の助手席には福井君が座っている。
左右の窓には、夜の景色が生まれては消え、生まれては消え、次々と流れている。
怜は何かを察したのか、わたしの耳元に「大丈夫?」と囁いてくる。
「大丈夫よ」と答えるわたし。
怜はわたしの手をぎゅっと握りしめる。
前の席では、福井君が怜のパパと何か話し込んでいる。
何を言っているのかはっきりは聞こえないが、時折、言葉の断片が耳を穿つ。
「人生に無駄なことなんて何ひとつないんだよ」
「間違いや失敗であってもですか?」
「そうだ、そこにこそ、無意識は宿るからね」
…そうなんだろうか?だとすれば、わたしのしたことが間違いでも、いえ、わたしたちのしたことが失敗だとしても、そこに無意識は宿って、すべてを変えてくれるのだろうか?
そう思ったら、何だか、ちょっと楽になった気がした。
わたしはわたしであっていいのかもしれない、うえっちが何を考えているとしても。
そうだ、うえっちにオムレツを作ろう。オムレツに手ごねのハンバーグをつけて、うえっちの大好きなナポリタンも添えて、お弁当を作ろう。うえっちに食べてもらおう。
そう思って、わたしはちょっと微笑んだ。
怜の方を見ると、怜も静かに微笑んでいた。暗闇なのに、怜が一緒に微笑んでくれているのがわかるのが不思議だった。
家に帰ると、わたしはスケッチブックを取り出して、うえっちに食べてもらうお弁当のデッサンを色鉛筆で描き始めた。
楽しい気持ちが心に湧き上がってきた。
『そうだ、それでいい』
心の奥底から声がする。『あなたは誰?』と思ったが、わたしはすぐにデッサンを描くことに夢中になった。
黄色のオムレツを中心に、ミニハンバーグ、オレンジ色のナポリタン、赤のプチトマト、緑のブロッコリー、あとは白いご飯はつまらないからお赤飯にしようかな?お赤飯って何かのお祝いみたいだな。でも、うえっちと再会できたお祝いかも。
オムレツにケチャップで文字も書いちゃおうかな?
LOVEとか書いたら大胆すぎるかも。
そんなこと考えながら描いていると時間が過ぎる。
ママが横からスケッチブックを覗き込んできて、「すごく楽しそうね」と言ってくる。
そう、わたしは楽しい、何がどうあっても。