無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 130〜H39 お弁当

塾の授業は、1日に2コマある。

そして、その間に、休憩時間が20分あって、簡単な夕食を取る者はとる。大抵の人はコンビニのサンドウィッチなどをかじっていたが、お弁当を持ってくるものもいた。

休憩時間になった時、わたしは、右手で隣にいる疲れて目にクマができているうえっちの肩をとんとんと叩いた。

「何?」

「ジャーン」

わたしはカバンから赤のチェックのクロスと青のチェックのクロスで包まれた2つのお弁当を取り出した。

そして、青のチェックの方をうえっちに渡した。

「これを、ぼくに?もらっていいの?」

「うん、うえっちのために作ったから。開けてみて」

うえっちはそっと蓋を開けた。オムレツの黄色がまず目に飛び込んできて、それからそこに書いてある赤い字、次にお赤飯の色が目に入ってくる。

「『うれしい』って?」

「うん、うえっちと再会できてうれしいって意味」

ほんとはLOVEって書きたかったけれど、わたしには無理だった。

「ありがとう、はまっち」

はまっちって呼ばれると、心が幸せ色になってしまう。本当に単純だ、わたし。

「早く、食べて、食べて。わたしも食べるから」

うえっちは食べ始めた、「おいしい、おいしい」と言いながら。

「オムレツも食べて、うえっちに食べてもらうのが夢だったんだから」

わたしは中1の頃のオムレツを作っては何度も失敗し、また作ってはということを繰り返したことを思い出した。

うえっちは箸でオムレツを三等分にし、その一切れを口にパクッと放り込んだ。何だかその仕草が可愛くて、胸がキュンとした。

「すごくおいしいよ。中がふわっとして。はまっち、がんばっているんだね」

その言葉を言った後、たちまち、うえっちの顔が歪み、それから必死に堪えていたが、うえっちは涙を流し始めた。

「それに引き換え、ぼくは…」

「大丈夫、うえっち、泣かないで。せっかく、会えたんだから」

わたしは、知らない間に、うえっちの背中をさすっていた。気がつくと、教室のみんなが見ていたが、恥ずかしいという気持ちはなかった。

「情けないよ、はまっち、ぼくは…男なのに…弱くて…卑怯で、泣いているなんて」

わたしは自分のハンカチをうえっちに差し出した。

うえっちは涙を拭いて、少し落ち着いたようだった。

「わたしも、そう、小学生の頃、どんなにうえっちに助けられてきたことか。だから、大丈夫。今は、お弁当を味わって食べて」

うえっちは、またお弁当を食べ始めた。

わたしも自分のお弁当を食べながら、うえっちの横顔を見ているだけで幸せだった。