僕とはまっちは、それから、藤堂さんのお家にお邪魔した。
白い2階建ての洋館、そして、久しぶりに見る藤堂さんはもうどこからどう見ても、立派なお嬢様という感じで、僕は否応なく緊張するしかなかった。
「怜ちゃん、手を洗わせてくれる?」
「あらあら、泥だらけの手。洗面所で洗ってらっしゃい」
けれど、僕の予想と裏腹に藤堂さんの笑顔は何だかとても柔らかくて、僕は素直な笑顔に絆されて、どっと緊張が緩むのを感じた。
『藤堂さんってこんな感じだったっけ」
「うえっち、先に洗ってね」
はまっちに言われて丹念に手を洗う。僕はふーっと息をついた。
「何、緊張してたの?」
「いや、そんなことないよ」
「嘘、顔に書いてあったわよ」
「そうかな」
「怜ちゃん、すごい美人だからね」
「いやいや、そういうことじゃなく」
「わかってるわよ」
そう言われれば、返す言葉はない。はまっちも手を洗って、2階の藤堂さんの部屋に上がった。
何だかいい香りがする。
薔薇の香り、そう思って見渡したが、どこから香ってくるのかわからない。
さらに、部屋には、冬の穏やかで明るい太陽の陽射しがいっぱいに入ってきている。
「座ってね、上地君も、サッチも」
白いカフェテーブルのイスを勧めらて、はまっちも僕も座った。
「さて、クリスマスのお祝いの前に、ちょっと催眠の練習をしましょうか?」
藤堂さんは、落ち着いた声で、僕たちを見回して言う。
こうしてあらためて見てみると、藤堂先生とどことなく似ている。親子だから当たり前と言えば当たり前なのだが。
そうして、まず、3人で呼吸合わせをした。
最初はちょっと恥ずかしさを感じたが、呼吸を合わせて肩を前後しているうちに、そんなこともすっかり忘れていた。
そして、順番に、セラピスト役とクライアント役、もう一人はオブザーバー役をやることになった。
まず、藤堂さんがセラピストで、僕がクライアント、はまっちがオブザーバー。
「悩みはありますか?あったら、言える範囲でおっしゃってくださいね」
「悩みは、将来に対する漠然とした不安…です」
「具体的にはどんなことですか?」
「大学に合格したら、ひとり暮らしをしようと思っていますが、両親には言っていません。そこで、いざ、そのことを言ったら、特に母との間に揉め事が起こるんじゃないかと思っています」
「過去にも、お母様と揉め事はあったのですか?」
「あっ、はい」
「いつ頃のことですか?」
「いろいろあるんですが、今、思い出すのは小学生の時です」
「どんなことが起こったのですか?」
僕は、はまっちの方を見つめた。はまっちも僕を見つめて、首を縦に振った。
「うえっち、もうあのことを話していいわ」
僕は、自分とはまっちだけの秘密を、誰にも話したことのないあの逃避行について話し始めた…