あの約束があるからこそ、17歳は僕たちにとって世界中の誰よりも特別な時なのかもしれない。
そんなことを考えていると、僕たちは街道にぶつかり、ちょっと左に曲がった。
そこに、うちの高校生御用達のファミレスがあった。
ここには、あの舌を出した女の子の人形はない、それはわかっているのに、僕たちはやはり窓側の席を選んでしまうのはどういうわけだろうか?
席に落ち着くと、ウェイトレスが注文を取りに来る。
注文を聞かる前から、ドリンクバーに決まっている。
そして、交互に飲み物をとりに行って、やはり、ふたりともアイスミルクティー。
「相変わらず、コーヒーじゃなくて紅茶派ね」
「はまっちも、じゃなくて、浜崎さんも」
「はまっちでいいわよ、もう。私もうえっちと呼ぶから」
「いいの?」
「いいわよ、私もふだん心の中でうえっちって呼んでいるから」
「そうか、はまっちも僕のこと考えることあるの?」
「それはね、でも『はまっちも』っていうことは、うえっちも私のこと考えることあるっていうことだよね?」
「それはね」
僕ははまっちと同じ口調で答えた。ふたりとも声を出して笑った。
「ほら、見て。あそこ」
急にはまっちが言う。はまっちの指差す方を見てみたが、特別なものは何もない。
「何のこと?」
「ほら、ここから見えるあの空の」
空は真っ青に晴れていた。
「あの空の?」
「ふたつ並んでいるでしょ」
「ああ」
「何だか、あのふたつの雲、2匹の羊みたいに見えない?」
「そう思えば、そう見えるかも」
「でしょ?何だか、似ていない?」
「僕たちに?」
「そう」
そんなことを言っているはまっちのきらきらした顔をみていると、愛しさで心が爆発しそうになる。僕はあえて冷静を装った。
「ところで、はまっちも催眠やってるって聞いたけど、僕がやってるというのはどこで聞いたの?」
「それはいろいろね」
悪戯っぽい笑みを浮かべる。右に片えくぼが出る。僕はちょっと泣きそうになった。
「何、泣きそうな顔しているのよ」
「はまっちの片えくぼ見たの、久しぶりだったから」
「えっ、そんなことで。そんなに見たいなら、これからいくらでも見れるわ」
「本当に?」
「本当よ」
それはどういうことを意味するのだろうか?それってもしかして…
「ところで、催眠やってるって」
「そう、その話ね。怜ちゃん、覚えてる?怜ちゃんのお父様からふたりで催眠を習ってるの」
「怜ちゃんの…ということは、藤堂先生?」
「もちろん、そうよ」
「ということは、僕もはまっちも藤堂先生から催眠習っているということ?」
「そういうことになるわね」