無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 191 薔薇の薫りの催眠

藤堂さんは、僕の話を何も言わずにじっと聞いていた。

そして、僕とはまっちを交互に見た。

「これからする催眠は、上地君に向けただけのものではなく、サッチのものでもあると、無意識さんが言っているようですから、おふたりのためにさせていただいてもよろしいですか?」

「僕はもちろん構いません」

「私もお願い、怜ちゃん」

「では、始めさせていただきます。

今、薔薇の薫りがしているのに気づかれているかもしれません。

そうして、薔薇の薫りを一番強く感じたのはいつでしょうか?

この部屋に入った時なのかもしれませんね。

部屋に入った時、最も強く薫りを感じて慣れてくるとそんなにだんだん感じなくなる、そんなこともあるかもしれません。

感じなくなった薫りはどこに行ったのでしょう?

もしかすると、その薫りは、上地君とサッチ、おふたりにしみこんでいるのかもしれません。

おふたりの体にしみこんでいっているのを気づくこともできるでしょう。

この薫りを含んだ空気を、鼻から吸って、喉へ、肺へと吸い込み、全身の細胞を包み込み、浸透させているのを。

この空気の中で、何だか、呼吸が楽に、優雅に、楽しくなっているのを、もう感じているかもしれません。

そうして、この薫りが内臓にまで届き、包み込み、しみ通って、例えば、内臓のひとつである心臓に浸透して、いつもより心臓が軽やかに脈打っている…そんなことを味わうこともできるのです…そうではないでしょうか、上地君、サッチ?

私の話すことに注意しなくてもいいのです、あなたたちの無意識の語ることに注意を向ければいいのです。

すべては、あなたたちの無意識のイニシアチブでなされているのです。

そうして、いつの間にか、あなた方の体に染み込んだ薔薇の薫りが、心にまでやってきていることに気づいてもいい頃なのかもしれません。

薫りが心に密やかに入り、心と混ざり、染み込み、染み込み、染み込んで、心とひとつになる、そんなことを自分で自分に許してもいい、そんな時がやってきているかもしれませんね。

心の全て、記憶の全て、楽しい思い出にも、トラウマにさえも、薔薇の薫りは、一切、区別することなく、差別することなく、ただ淡々と、緩やかな、同じリズムで、薫り漬け、染み込んでいくのです。

今、染み込み始めたというのではない、ひょっとすると、もう今までに、あなたたちの人生の中で、ずっと前から、無意識さんはこの薫り漬けを始めていたのかもしれません、そうではないでしょうか?

だから、ほら、思い出していただけるでしょうか?

あなたたちが会った時、もしかすると、上地君がサッチに、サッチが上地君に、この薔薇の香りをお互いの中に感じていたことを。

私にはわかりません、でもあなたたちの無意識さんは知っているのかもしれません。

薫りに漬け込まれたものは自分の薫りがわかりません、けれど、薫りに漬け込まれたものは、いつの間にか、自然と薫りを周囲に漂わせているのです。

そうして、あなたたちは相手の薫りに、実は自分の薫りを感じていたのかもしれませんし、今も感じているのかもしれません。

相手のトラウマを聞いた時、悲しみに暮れた時でさえも、そのトラウマが薔薇の薫りがすることに気づいていたのかもしれません。

これから、あなたが意識していないところで、無意識さんによってあなたの香り漬けは進んでいくことができます、あなたの心も体も薔薇色に染め上げられ、あなたたちが風にそよぐ一輪の薔薇となっていることに気づく日も来るのかもしれません。

それでは、今、覚醒した状態に戻ってきましょう。

ひとーつ、心と体に風がやさしく流れ込んできまーす。

ふたーつ、心と体が軽やかに踊り出してきまーす。

みっつで、深呼吸を1回か2回か3回か、自分の意思で決めた回数をして、頭はスッキリ、体はエネルギーに満ちて、目を覚まします」

僕は目を覚ました。はまっちも目を開けた。

もう慣れてしまったはずの、薔薇のポプリの薫りを、隣に座っているはまっちから強く感じるような、そんな気がしてならなかった。