藤堂さんと、福井君が一緒に、部屋に入ってきた。
福井君は、もう忍者のような格好ではなかった。派手ではないけれど、普通の格好をしている。何だか、発する雰囲気も以前と比べると、柔らかい感じがするのは気のせいだろうか?
テーブルを挟んで、僕の隣にはまっち、はまっちの正面に藤堂さん、そして、僕の正面に福井君が座った。
「こんにちは、お久しぶりです」
福井君が落ち着いた声で僕に言う。
「こちらこそ、お久しぶりですね」
ほんとは話したこともほとんどなかったから、お久しぶりという言葉も厳密にはどうかと思ったが、こういう時にはそういうのが筋というものかもしれない。
「みんな、揃いましたね。では、クリスマスパーティを始めましょう」
藤堂さんがみんなを見回す、福井君を見る時に何だか表情が緩むのが初々しい。
「クリスマス、おめでとう。かんぱーい」
そんなふうに言う藤堂さんは、ちょっと意外だった。けれど、僕もみんなもジュースの入ったグラスをあげて、かんぱーいと言い、最初は、はまっちとグラスを交わし、次いで福井君と、そして藤堂さんと交わし合う。カチリと心地よい音が部屋に響く。
こんなクリスマスらしいクリスマスを経験したことがないからちょっと気恥ずかしい、でも何だか僕は幸せな気がしているらしい。
ジュースを飲みながら、藤堂さんが作ったオードブルを摘む。
クラッカーの上に、クリームチーズとスモークサーモンがのっているらしい。
らしいというのは、そんなものを食べたことがないから。
白いクリームチーズの上にピンクのサーモンが映えている。
手にとるとちょっとドキドキしてしまう、口に入れると、すぐに感じるサーモンの塩気とクリームチーズの滑らかさ、追いかけてくるクラッカーのサクッという感じ。
「おいしいですね」
福井君は僕の顔を見て言う。僕はそんなにおいしそうな表情をしていたんだろうかと思った。
「そうですね。小さな頃からクリスマスって祝ったことがないので、ちょっと緊張しています」
「そうなんですね。僕もほとんどクリスマスは教会で忙しかったので、こんなクリスマスは初めてですよ」
「教会のクリスマス?どんな感じですか?」
「まあ、荘厳な感じとでも言ったらいいでしょうか?」
『荘厳な』という言葉にちょっと違うアクセントが感じられたので、僕はこれ以上、そこには触れない方がいいと思った。
「こういう親しい人たちだけの間のクリスマスはいいですよね」
「そうですね、僕はもう教会のクリスマスには出ることがないだろうから、このクリスマスが僕のクリスマスです」
ちょっと、言葉に微かな痛みが感じられたような、そんな気がした。