そうして、楽しいパーティーもお開きになった。
片付け物と洗い物は、僕と福井君がやることになった。
食器をふたりでキッチンのシンクに運ぶ。
シンクはよく磨き込まれているのかビカビカだ。
洗剤をスポンジにつけて十分泡立ててから洗っていく。
洗剤の爽やかな匂いが鼻をかすめ、両手でお皿をスポンジで擦っていき、お湯ですすいでいくと、皿の表面がいつの間にか、キュッキュッという音を立てる。
「ファミリークリスマスはいいものですね」
福井君は白い歯を見せて笑う。
「僕たちはまだファミリーじゃないけどね」
僕は福井君の言葉に突っ込んだ。
「そうだ、しまった。友達同士ですからね」
「そんなことはさておき、楽しかったね」
「ええ、楽しかった。こんな楽しいクリスマスは初めてです」
「僕もそう、クリスマス自体祝ったことがなかったから、最初のクリスマスが最高のクリスマスなんて、ほんと、ついているかもしれない」
僕たちはちょっと黙った。何だか、福井君と僕は友達になれそうな気がする。
食器を洗い終わり、洗った食器を丁寧に拭き終わった。
僕と福井君は部屋に戻ると、はまっちと藤堂さんが待っていた。
「じゃあ、うえっち、帰ろう」
「福井君は?」
僕は福井君ともう少し話したいような気もしていた。
「ふたりは…そこは察してあげないと」
はまっちは僕の耳元で言う。
『そういう意味か』
あらためて、藤堂さんと福井君を見ると、何だかふたりがとてもよく似ているような気がした。全然、違うけれども、よく似ている、そんな不思議な感じがする。
僕とはまっちもそんなふうになっていくこともあるんだろうか?
僕とはまっちは、藤堂さんと福井君に別れを告げて、白い洋館を後にした。
外は、冬らしく身震いがするほど寒かった。
バス停までの道を並んで歩く、あまりにも見覚えがある道。
僕たちは、この世の終わりみたいな気持ちで、頼るものがお互いに相手同士しかいなくて、その手を離すまいと必死で手を握り合って歩いたあの時。
そんなことが脳裏をかすめる。
ふと、僕の小指がはまっちの左の小指に触れる。
僕たちは、どちらからともなく、手を握った。
あの時とは違う思いと感触で、今、この時、ここで。
「私たち、大きくなったよね」
「そうだね、いろいろな意味でね」
あのバス停が近づいてくる、でも、今の僕には心が引き裂かれるようなあの痛みはもう懐かしい思い出になってしまっている。
数分後、バスは時間通りにやってきた。
「じゃあ、またね」
握っていた手を離して、はまっちは胸の前で小さく手を振る。
「また、司書室で」
僕も小さく手を振りかえした。
気がつくと、はまっちの髪に白い雪花が舞い降りてくる。
僕はバスに乗り、窓越しにはまっちを見ながら、ゆっくりと席に腰を下ろした。