「そうなんですね」
僕は、どう返していいかわからなかったので、適当な言葉を発し、適当なあいづちを打つしかなかった。
「僕は、もう神父になろうという望みは…いや、強制かな、捨てました。そして、カトリックであることもやめました。親の支配、宗教の支配から出ようと決心したんです」
福井君は、さも何でもないことのように言う。
「実は、僕も卒業したら、ひとり暮らしをしようと思っています」
ありきたりの返事を言うのも福井君に失礼な気がして、唐突に自分のことを言ってしまった。
「親の支配から脱することが自由になる一歩ですね」
福井君は静かに言った。
「ええ、痛みが伴うにしても」
「痛みは成長する証なんでしょうね」
「そうかもしれませんね」
僕が小さく微笑むと、福井君も透明な微笑みを返す。
「さて、メインのチキンを切り分けますね」
藤堂さんの明るい声が響く。
そして、きつね色にこんがり焼かれた一羽丸ごとのローストチキンを、手慣れた手つきで切りさばく。
更に、付け合わせのジャガイモなどと共に、切り分けて、ひとりひとりの前に白い皿を置いていく。
「本格的ですね」
「ええ、さすがになかなか大変でした」
フォークとナイフを使って、口に運ぶと、ローズマリーなのだろうか、ハーブの香りが鼻を通り抜け、チキンはジューシーで柔らかい。
「おいしいよ、怜ちゃん」
「おいしいです」
僕たちが口々にそう言うと、藤堂さんは素直に喜びの表情を表す。
そうして、お腹も満ちた後、いったんテーブルは片付けられて、藤堂さんはかなり大きな箱を持ってきた。
「人生ゲーム!」
「ちょっと、子供っぽいかもと思ったけれど、親しい人でこういうのもいいかなと思って」
親しい人という言葉に何だか、心が打たれる。
小さな頃から、家族で、誕生日やクリスマスなどのイベントの時に人生ゲームをやることが夢だった。
「昨日は、クリスマスにご馳走を食べてから家で人生ゲームをしたんだよ。上地君は何をしたの?」
そう言われると、黙っているか、嘘をつくかの二択しかなかった。
そんなことを思っていると、おもちゃのドル札が渡され、ルーレットが回され始める。
ひとつだけピンをさした青いプラスチックの車に、駒を進めるうちに、ピンクのピンがささり、子供たちのピンがささり…
成功したり、失敗したり、止まったり、進んだり…
僕は、結局、4人中4位だったけど、何だか満足だった。
「うえっち、相変わらず、ゲームに弱いね」
「小学校の時もそうだったっけ?」
「そうそう、休み時間にUNOとかしたじゃない」
ああ、そうだったんだ。忘れていた記憶が頭の中に、傍に飾られているクリスマスツリーのペッパーランプのように点滅する。