無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 194 夢のクリスマス

「そうなんですね」

僕は、どう返していいかわからなかったので、適当な言葉を発し、適当なあいづちを打つしかなかった。

「僕は、もう神父になろうという望みは…いや、強制かな、捨てました。そして、カトリックであることもやめました。親の支配、宗教の支配から出ようと決心したんです」

福井君は、さも何でもないことのように言う。

「実は、僕も卒業したら、ひとり暮らしをしようと思っています」

ありきたりの返事を言うのも福井君に失礼な気がして、唐突に自分のことを言ってしまった。

「親の支配から脱することが自由になる一歩ですね」

福井君は静かに言った。

「ええ、痛みが伴うにしても」

「痛みは成長する証なんでしょうね」

「そうかもしれませんね」

僕が小さく微笑むと、福井君も透明な微笑みを返す。

「さて、メインのチキンを切り分けますね」

藤堂さんの明るい声が響く。

そして、きつね色にこんがり焼かれた一羽丸ごとのローストチキンを、手慣れた手つきで切りさばく。

更に、付け合わせのジャガイモなどと共に、切り分けて、ひとりひとりの前に白い皿を置いていく。

「本格的ですね」

「ええ、さすがになかなか大変でした」

フォークとナイフを使って、口に運ぶと、ローズマリーなのだろうか、ハーブの香りが鼻を通り抜け、チキンはジューシーで柔らかい。

「おいしいよ、怜ちゃん」

「おいしいです」

僕たちが口々にそう言うと、藤堂さんは素直に喜びの表情を表す。

そうして、お腹も満ちた後、いったんテーブルは片付けられて、藤堂さんはかなり大きな箱を持ってきた。

「人生ゲーム!」

「ちょっと、子供っぽいかもと思ったけれど、親しい人でこういうのもいいかなと思って」

親しい人という言葉に何だか、心が打たれる。

小さな頃から、家族で、誕生日やクリスマスなどのイベントの時に人生ゲームをやることが夢だった。

「昨日は、クリスマスにご馳走を食べてから家で人生ゲームをしたんだよ。上地君は何をしたの?」

そう言われると、黙っているか、嘘をつくかの二択しかなかった。

そんなことを思っていると、おもちゃのドル札が渡され、ルーレットが回され始める。

ひとつだけピンをさした青いプラスチックの車に、駒を進めるうちに、ピンクのピンがささり、子供たちのピンがささり…

成功したり、失敗したり、止まったり、進んだり…

僕は、結局、4人中4位だったけど、何だか満足だった。

「うえっち、相変わらず、ゲームに弱いね」

「小学校の時もそうだったっけ?」

「そうそう、休み時間にUNOとかしたじゃない」

ああ、そうだったんだ。忘れていた記憶が頭の中に、傍に飾られているクリスマスツリーのペッパーランプのように点滅する。