誕生日が過ぎると、あっという間に、僕もはまっちも高校3年生になった。
さすがに、3年生になると周囲は慌ただしかった。受験まで、あと10ヶ月ともなると浮き足立ってくる。授業中に、授業を聞かないで、英語の参考書を広げているものもかなりいたが、教師の方も見てみぬふりをしていた。
けれど、僕はそんな周りの雰囲気に巻き込まれることもなかった。
同じように、図書委員として司書室に出入りし、週に3回は無限塾のチューターをし、家では自分の食事は自分で作っていた、もちろん、受験生としてそれ以外の時間は勉強に当てていたが。
僕とはまっちの関係も同じだった、誕生日を境に急接近ということはなく、近くても近過ぎることはない心地よい関係を保っていた。
「本当の変化や成長というのは、若木が育っていくように、目に見えないものなんです。時間の流れに逆らった急速な変化や成長というのは、簡単に消え去ってしまいます。目に見えない日毎の変化や成長は、『あれっ、いつの間に、こんなに成長していたの』と、時間の流れの中で確かに残り、次のステップへと進んでいきます」
藤堂先生が僕に言ってくれた言葉を思い出していた。
そんなある日の昼休み、司書室で、いつものように購買で買ったパンを食べていると、はまっちが入ってきた。
パイプ椅子を引いて、僕の横に座る。
他の図書委員もいたが、特にこちらに注目するものもいない。
お弁当袋から弁当を取り出して蓋を開けると、はまっちは思い出したように言った。
「そう言えば、うえっち。怜ちゃんから言伝があるの」
「藤堂さんから?はて、何だろう?」
「福井君がね、うえっちと会いたいんだって」
「福井君が?」
僕はクリスマスの時の福井君の姿を思い浮かべた、白い歯を見せて笑う姿を。
「それでね、時間をつくってくれないかだって」
「もちろん、いいよ。でも、いつ、どこで会ったらいいんだろう?」
福井君は確か、都心のカトリックの男子校に行っていたはずだ。
こんな時のために、連絡先を交換しておけばよかったのかもしれない。
「大丈夫よ。次の日曜日、怜ちゃんの家で午後2時はどうかな?」
「いいけど、ひとりで藤堂さんの家に行くのは何だか気が引けるな」
「私も一緒に行くから」
はまっちはぎこちないウィンクをしてみせた。どういう意味のウィンクかは一向にわからない。
「それは心強いかもね」
僕もウィンクのお返しに、意味ありげに含み笑いをしてみせた。
「何、笑っているのよ。じゃあ、午後1時30分にあのバス停でね」
「わかった」
それから、僕たちは午後の授業に間に合うように、ランチをものすごい勢いで平げた。