無意識さんとともに

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聖人A 67 赦されざる罪

そんな頃だった。

僕が大学からの帰りに最寄りの駅の改札口を降りると、目の前にKさんがいた。

あのこと以来、Kさんと地元の教会で出くわすことはなくなっていた。

ミサの後の聖霊刷新の会でも姿を現さない。

それなのに、なぜ、今、ここにいるんだろう。

改札口をまばらに出ていく人の中で、彼女がいるそこだけが何だか、空間が歪んでいるような気がした。

けれど、僕は、何も考えずに、彼女に手をあげて近づいた。

「やあ」

「嘘つき」

Kさんは、異様にギラギラした視線で僕を射抜こうとしてくる。

「何?」

「嘘つき、嘘つき、嘘つき!」

止めようとしても、だんだん音が大きくなるアラームみたいに、Kさんはついには叫び声を上げた。

周りの人は、僕とKさんを好奇の目で見てくる。

「どういうこと?」

僕は咄嗟にKさんの腕を掴んだ。

「いやよ、いや!」

Kさんは、僕の腕を信じられない力で振り払った。

「嘘つき!」

そして、再度、僕の目を燃えるような眼差しで見つめてその言葉を口にすると、駆け足で改札口を通りぬけ、視界から消えていった。

僕は、呆然とそこに立ち尽くしていた。

Kさんに僕が何をしたというのか?

それとも、何もしなかったというのが問題だったのか?

もしかしたら、僕が今、Rさんと付き合っていることを知って、それでこういう態度に出ているのか?

僕は、帰ることもできなくなって、ただただ、ぐるぐると考えるだけだった。

1時間ぐらいして、僕はようやく家に辿り着いた。

解けないパズルのように、そのことが気になって止まらなかった。

もちろん、Rさんや他の人に相談する気にもならない。

神様に祈ってもみたが、こういう時に限って、何の答えもない。

僕は、ふと思い出したように、携帯を取り上げると、そこにまだKさんの自宅の電話番号が残っていることを確かめた。

しばらく迷っていたが、僕は今背負っている重荷に耐えかねて、番号を押した。

以前もかけたことがあったが、出てきたKさんの母はとても品のいい、感じの良い人だった。

確か、母親もカトリックだったはずだ。

何度か発信音が鳴って女の人が出た。

Kさんの母親に違いない。

「どなたですか?」

「もしもし、佐藤と申しますが」

「佐藤さん?」

その言葉は当たり前のものだったが、その言葉の響きは絶対零度に冷却した金属の棒に触れたような、ぞっとするほど冷たいものだった。

「Kさんをお願いします」

「娘は出せません」

「どういうことですか?」

「訳はあなたが知っているでしょう?」

「いえ、わからないので、教えてください」

「教えるつもりはありません。ただひとつ、これだけを言っておきます。たとえ、神様があなたを赦しても、私はあなたを絶対に赦しません」

そう言って、ガチャリと電話が切れた。