U
ぼくは借りてきた猫のようになって、はまっちの右に座って、しばらくは3人で話した。
はまっちは「ええ」とか「そうかしら」とか言っていて、ぼくの知っているはまっちとは全くの別人のような気がしてならない。
『ほんとにここにいるはまっちは、あのはまっちなのだろうか?』
ぼくは疑った。疑って、ふたりが話している間、頬をつねってみた。けれど、ちゃんと痛い。こんなに変わってしまったのは、きっと藤堂怜という子のせいなんだと思ってみても、彼女の存在はあまりに静かで落ち着いていて、心底からはそうは思えない。
『一体、どうしちゃったんだろう?』
H
しばらく、3人で話したが、うえっちは話にのってこない。『3人では話しにくいのかな?』そう思って、横目でうえっちの方を見ると、心なしか、1か月前にあのバス停で別れた時より背が伸びているようだった。
『何だか、前より大人になっちゃったな。わたしをひとり置いていかないで』
そんなことを思っているのが、怜に伝わっているのかどうかわからないけど、怜は時折、わたしの方を見て、なんとも言えない微笑みを浮かべる、すべてを受け止めているかのような。
「ちょっと、わたしは用があるのでお邪魔します。幸子そして上地君、あとはふたりでゆっくり過ごしてくださいね」
『置いていかないで、怜。どうしたらいいかわからないから』、そう言おうとしたけれど、怜はそう言う間も与えず、去って行った。
U
はまっちの友達がいなくなって、はまっちとふたりきりになった。
何だか、余計に緊張してしまう。前は、はまっちといると、すごくリラックスして自分が自分であることができたのに。
けれど、何か話さなくちゃ。あれほど、はまっちに会いたかったんだから、何か話さなくちゃ。
「最近、学校、どう?」
なんてつまらないことを話しているんだ、言いたいことはもっとある。でも、言葉が出てこない。
「うん、楽しくやれているよ。うえっちは?」
「ぼくも楽しくやれてるよ」
「友達できたの、うえっち?」
ぼくは、自分の班のメンバーについて話した。掃除の後のビー玉サッカーやこの間の催眠術ごっこについて話した。話していて、思わず話に熱がこもった。
H
「楽しそうね」
うえっちはどうしてそんな話をするんだろう。私の全く知らない人たち、その中には男子だけではなく、女子もいる。
催眠術ごっこで、「好きな人は上地君、うっそ〜」なんて、うえっちに好意を持っていることが見え見えじゃない。
その女子たちは、うえっちのそばにいれて、そんなことを言える。
わたしはその女子たちに嫉妬してしまう、そんな自分がどんなに醜いと思っても。