無意識さんとともに

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催眠!青春!オルタナティヴストーリー 73〜H8/U8落胆

U

言葉が心に届かないで、表面だけを滑っていく。こんなはずじゃなかった。はまっちに会ったら、言いたいこと、したいことがいっぱいあったのに。

「そうだ、はまっち、ぼくのサイクリング車の後ろに乗らない?」

「…ありがとう。でも今はやめておくわ」

悲しみで胸が破けそうになった。はまっちを後ろに乗せて、風を切って走るのが、今の今までぼくの夢だったのに。

『どうしちゃったんだ、はまっち』とぼくは言いたかったけれど、はまっちの心の中にあるものを覗いてみたかったけれども、それだけは言ってはいけない言葉のような気がして、喉に詰まったまま言えなかった。

H

わたしは怒っているんだろうか?うえっちの中学校での新しい友達に嫉妬しているのかな?

自分で自分の心がどうにもわからなかった。せっかくうえっちに会えたのに、会いたい会いたいとずっとこの日を待っていたのに。なんでこんなことになるんだろう。

うえっちがせっかくサイクリング車に乗せてくれるというのに、すごく楽しみにしていたというのに、断ってしまった。
わたしって拗ねているのかな。どうして、なんで?と自分に問いかけてみても、何の返事も返ってこない、何だか心が石になってしまったみたい、重い、重い。

U

ぼくたちの会話はぽつりぽつりとしたものになって、途絶えがちになってしまった。

まだ、1か月になるかならないかなのに、この距離感は何だろう。

その時、はまっちが独り言みたいに言った。

「…そう言えば…あの小屋に行ってみたけど…鍵が…どうしても…開かなかった」

「何だって?」

「小屋の鍵が開かなかったの」

あの小屋が閉ざされている、ぼくとはまっちを繋ぐ唯一の場所、あそこが鍵で閉じられてしまっているから、だから、だから、…なのか?

H

石のような心にも、あの小屋のことだけが点滅している、そしてその点滅の間隔がどんどん短くなっている気がする。

わたしは耐えきれず、小屋の鍵がどうしても開かなかったことをうえっちに言った。

それまでうえっちはぼうっとしているみたいだったが、急に目を見開いて大きな声を出した。『ああ、うえっちにもあの小屋は、今も大切なものなんだ、よかった』、そう思いつつも、悲しいような苦しいような気持ちが胸に澱のように沈殿していた。

U H

それからも、ぼくたち、わたしたちは重苦しい雰囲気だった。小屋のことは驚きを引き起こしたが、何だか、最後に落ちた線香花火の火の雫のようだった。

「じゃあ、また」

「またね」

そう言って、ぼくたち、わたしたちは公園を後にした。

ただ、左足首にミサンガを揺らしながら。