U
言葉が心に届かないで、表面だけを滑っていく。こんなはずじゃなかった。はまっちに会ったら、言いたいこと、したいことがいっぱいあったのに。
「そうだ、はまっち、ぼくのサイクリング車の後ろに乗らない?」
「…ありがとう。でも今はやめておくわ」
悲しみで胸が破けそうになった。はまっちを後ろに乗せて、風を切って走るのが、今の今までぼくの夢だったのに。
『どうしちゃったんだ、はまっち』とぼくは言いたかったけれど、はまっちの心の中にあるものを覗いてみたかったけれども、それだけは言ってはいけない言葉のような気がして、喉に詰まったまま言えなかった。
H
わたしは怒っているんだろうか?うえっちの中学校での新しい友達に嫉妬しているのかな?
自分で自分の心がどうにもわからなかった。せっかくうえっちに会えたのに、会いたい会いたいとずっとこの日を待っていたのに。なんでこんなことになるんだろう。
うえっちがせっかくサイクリング車に乗せてくれるというのに、すごく楽しみにしていたというのに、断ってしまった。
わたしって拗ねているのかな。どうして、なんで?と自分に問いかけてみても、何の返事も返ってこない、何だか心が石になってしまったみたい、重い、重い。
U
ぼくたちの会話はぽつりぽつりとしたものになって、途絶えがちになってしまった。
まだ、1か月になるかならないかなのに、この距離感は何だろう。
その時、はまっちが独り言みたいに言った。
「…そう言えば…あの小屋に行ってみたけど…鍵が…どうしても…開かなかった」
「何だって?」
「小屋の鍵が開かなかったの」
あの小屋が閉ざされている、ぼくとはまっちを繋ぐ唯一の場所、あそこが鍵で閉じられてしまっているから、だから、だから、…なのか?
H
石のような心にも、あの小屋のことだけが点滅している、そしてその点滅の間隔がどんどん短くなっている気がする。
わたしは耐えきれず、小屋の鍵がどうしても開かなかったことをうえっちに言った。
それまでうえっちはぼうっとしているみたいだったが、急に目を見開いて大きな声を出した。『ああ、うえっちにもあの小屋は、今も大切なものなんだ、よかった』、そう思いつつも、悲しいような苦しいような気持ちが胸に澱のように沈殿していた。
U H
それからも、ぼくたち、わたしたちは重苦しい雰囲気だった。小屋のことは驚きを引き起こしたが、何だか、最後に落ちた線香花火の火の雫のようだった。
「じゃあ、また」
「またね」
そう言って、ぼくたち、わたしたちは公園を後にした。
ただ、左足首にミサンガを揺らしながら。