無意識さんとともに

https://stand.fm/channels/62a48c250984f586c2626e10

催眠!青春!オルタナティヴストーリー 59〜謝恩会の後で

謝恩会も終わりに近づく頃、はまっちはぼくに目くばせした。

それで、ぼくたちはクラスの友達と別れを告げると、裏門で待ち合わせをした。はまっちは先に来ていて、心もとないように、白い塗装の門にもたれていた。そうして、裏門から中学校をまわって、右に抜けて、バス通りを左に…いつもの道を通って、あの小屋に向かった。知らないうちに、ぼくたちは手を握っていた。

小屋の戸のところまで来ると、この前、来た時にはついていた二匹の蝉の抜け殻がなくなっている。どこにいったのだろう?なんだかとても寂しい気持ちがしてしまう。

戸をがらがらと開けて、中を見回すと、いつものテーブル、長椅子、モスグリーンのソファ、薬品の並んだ棚、そして消毒液とかびの混ざった匂い…何も変わらない。

「ただいま」

はまっちが言う。

『おいおい、ここがぼくたちの家なのかい』と心の中で突っ込んでみたが、ぼくもそういう気がしてならなかった、この世界で唯一のぼくたちの家。

だから、ぼくの唇からも言葉が漏れ出た。

「ただいま」

ぼくたちは、前と同じように、はまっちが向こう側に、ぼくが戸から入ったこちら側に、向かい合わせに座る。

はまっちは、バッグから、途中の自動販売機で買ったまだ温かいペットボトルを2本、テーブルの上に置く。

「お茶なんて渋い好みだなあ」

「なんとなく、緑茶をふたりで向かい合わせで飲みたくて」

「そっか」

ぼくはペットボトルのオレンジのフタをひねる、湯気が出るほどではないが、温かいお茶の匂いが鼻をくすぐる。

「いつか、うえっちといつでもこうやって、何の悩みもなく、穏やかに、お茶を飲み合うことができるのかしら」

「よせやい、ぼくたち、まだそんな歳じゃないよ」

そうは言ってみたもののも、ぼくも心の中で同じことを願っているのかもしれない。

「神様がいるなら、神様がいるなら…」

はまっちは繰り返して言った。

「こんなささやかな願いだもの…きっとかなえてくれるよね?」

ぼくはもう何でも願いをかなえてくれる神様なんてどこにもいないのだとわかっていたし、はまっちもそうに違いない。それでも、ぼくもそう信じたかった、神様がいるなら、いや神様がいなくてもその願いはかなうと…いやかなえてみせると。

「必ず、かなうよ。ぼくが保証する」

ぼくは自分でもびっくりするぐらいの大声ではっきり言った。

「かなわなかったら、うえっちが何とかしてよ」

はまっちはちょっとだけ笑って言った。

「何とかする、絶対」

ぼくはアメリカの議会で議員が手を上げて宣誓するように、手を上げて言ってみた。

「それなら、大丈夫よね」

「そうだよ」

「家に帰るの、自分たちの家じゃない家に帰るの、苦しいなあ…」

はまっちは膨らんだ風船が萎むように、語尾にかけてだんだん小さな声になって言った。