片瀬江ノ島駅の改札を出ると、左に折れて、広々とした道を右に行くと、左手に江ノ島水族館、えのすいがあった。
受付で「子供2枚」という時に緊張したが、晴れやかな楽しげな気分にたちまちかき消されてしまった。
ちょっとした案内の紙をもらうと、イルカショーにはまだまだ時間があった。ラッキーだ、ゆっくり見て回ってから、イルカショーも見れる。
はまっちと階段を上ったり下ったりして、いろいろな水槽を見ていく。
ぼくの見たかったエイがぼくたちの頭の上の透明な水槽を、どっしりしかしひらひらと泳ぐ。口をばくばく開けて何か言っているような気がする。
「何だか、うえっちに似ているわね」
はまっちはくすくす笑う。
「口を見てると、何か言ってる気がするけど」
「…自由が一番大事だよと言ってるかもね」
ちょっと真剣な目つきになって答える。
ペンギンの水槽にやってくると、はまっちは目を輝かせてじっと見ている。
目の方向を見やると、はじっこで仲間に加わらないで、一人ぼっちで身体を震わせているペンギンがいる。
「何だか、あのペンギンはわたしに似ているかも」
「そうかな」
「何て言っているのかしら」
「普通になりたいと言っているのかも」
はまっちはハッとして、急に視線をぼくの方に向ける。ぼくは胸がぎゅっとなる。でも、はまっちの表情は変わることはない。
「クラゲを見に行きましょう」
色とりどりの大小様々のクラゲがいる。そして、ぼーっと光を発光している。何だか、地球のものとは思われない、宇宙からやってきたようだ。
「乙姫先生の国語の授業を思い出すね」
「クラムボンは笑ったよ」
はまっちは笑いながら答える。
「クラゲは何て言っているのかな」
「わたしたちは何も感じていない、今ここにいるだけ」
頭がじんと痺れてシーンとなった。
…
ぼくたちはいつの間にか手をつないでいた。そして、イルカショーに向かった。人はぽつぽつと座っているぐらい。はまっちは一番前に座りたがった。
「前だと水がかかるんじゃないの」
「うえっちはそんなこと気にするタイプ?」
「ううん」
「ほんとはうえっちも前に座りたいんじゃない」
「えっと」
ぼくはごまかし笑いをした。心の中を読まれちゃっている。
ぼくたちはど真ん中の一番前の席に座った。
イルカショーが始まると、音楽が始まってぼくたちは会場にいる人たちと一緒にリズムに合わせて手拍子をし始めた。次々にイルカが紹介されて、空中高くジャンプした。
案の定、ジャンプのたびにぼくたちは水をかぶった。けれど、心地良かった。はまっちは笑いながら歓声を上げていた。ぼくも同じだった。
「ほらね」
はまっちはこちらをちょっと向いて、ウィンクをしてみせた。ぼくも真似してウィンクを返そうとしたけれど、うまくできなくて両目をつぶってしまった。
「不器用、あはは」
何だか、自分たちが普通の小学生のような気がしてならなかった。