はまっちの誕生日がもう目の前だった。何とかしてはまっちに会ってプレゼントを渡したい。
僕は高村君に相談した。高村君は、隣のクラスの花岡さんに話してみると言う。
それで、決まったことは、はまっちの誕生日は日曜日なので、日曜日に花岡さんがはまっちを呼び出して誕生日をお祝いするというのは、そんなに不自然なことでもない。ただ、花岡さんの家族に見られるのも心配なので、花岡さんの家ではなく、中央公園に行くことにした。
ぼくは高村君と遊ぶということにした。
寒空の中、ぼくたち4人は公園に集まった。周りは木で囲まれていて、ブランコやジャングルジムで小さな子供たちが遊んでいる。とりあえず、ベンチに座ろうとしたが、高村君と花岡さんは1時間ばかり買い物に出かけてくると言う。
彼らを見送った後、ぼくとはまっちはベンチに腰かけた。
ぼくたちの距離は、あのことの前よりもずっと近かった。ぼくははまっちの体温を感じられる気がした。
「ゴミ捨て場で話した時以来ね」
何だか、はまっちの話し方も姿も、前より大人びている。年が明けたせいだろうか。
「そうだね」
「元気?」
「うん、元気だよ。はまっちは?」
「元気よ」
「はまっちは何だか大人っぽく見えるね、髪型とスカートのせいかな」
はまっちはもうツインテールはやめてセミロングにして、茶色のロングスカートをまとっていた。
「ありがとう。うえっちも何だかかっこよく見えるわ」
ぼくはちょっと赤面した。
「そう?」
「でも、そんなこと言われて頬を赤らめているんじゃ、まだまだね」
「まだ、修行が足りないかな」
「修行はいらないわ、愛があれば人は変わるから」
「何それ?」
「でも、ほんとでしょ?」
はまっちは頬をぷくっと膨らませた。やっぱりはまっちははまっちだ。
「もしかして、少女マンガのセリフ?」
「言わないで。いいでしょ」
「やっぱりそうなんだ、でも本当かもね」
ぼくたちはお互いの目をちょっとの間、見つめあった。でも、どちらが先かわからないけれど、耐えきれず笑い出した。
「はまっちははまっちでよかったよ」
「うえっちはうえっちでよかったわ」
「ぼくたちはこんな調子でずっと会話するのかな」
「そうね、いつまでもずっとずっと」
…
「ところで、誕生日おめでとう、はまっち」
「いつ言ってくれるかと思ったけど…このタイミングで?やっぱりうえっちね」
「プレゼントがあるんだけど」
「えっ、期待しちゃうな。宝石かしら、指輪かしら?」
「そんなんじゃないけど」
「ウソウソ、わたしはうえっちがくれるなら葉っぱだって喜ぶわ」
「そうだといいんだけど」
ぼくはおずおずとキャンバスバッグから、不器用に青いリボンをかけて巻いたあの絵を取り出した。
はまっちはリボンをほどき巻いてある紙を広げて、しばらく声も出さずにじっと見ていた。
そうして、突然に、
「やっぱり、うえっちってとんでもなくエッチだったのね」
と言って、ぼくの背中をとんでもなく思い切り叩いた。
「痛いよ」
ぼくは痛いそぶりだけ見せて笑いながら言った。
「ありがとう」
そう言って笑ってできる片えくぼがとてもかわいかった。
「まだ、終わりじゃないよ。裏を見て」
はまっちは紙を裏返して、そうしてそこに書かれた言葉をささやくような声を出して読んだ。
「糸杉のようにまっすぐな
美わしき背中をした少女よ
ぼくはそなたのことをひとときも忘れたことはない
たとえ、誰がぼくたちを引き裂こうとも
ぼくたちは夢の中で、想いの中で、永遠の逢瀬を重ねる」
「うえっちって、ほんと徹底的にエッチなんだから…」
そう言いながら、ぼくの頭を軽くげんこでコツンと叩こうとして、糸が切れたように、はまっちは泣き始めた、
「こんなふうに誕生日を祝ってもらったこと一度もない…こんな心のこもったプレゼントをもらったことなんて…ありがとう、あり…」
もう言葉にならず、ただただ泣いていた。